Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 01 19
「へぇ~、敵。そいつと昔戦ったことがあるの?」
一家の中でもっとも真面目なのがおせちであり、そのためしばしば彼女は話の聞き役に回る。
「人生の大半を奴との戦いに捧げた……といっても過言ではないが、いま語るべきは20世紀に入ってからのヤツの動向じゃろう。
ここひゃくぅ……4、50年間のヤツは前よりも大分なりふりかまわんようになって、地球規模のカタストロフを積極的に引き起こそうとしつつ、
自分の国家を設立するためにも立ち回っておった。戦中戦後は枢軸から東側陣営にかけて暗躍し、キューバ危機の、あの人類が最も危うかった一瞬にも直接的に関与した――」
「……」
「――そして最後に流れ着いた『ウルジクスタン』という中東のならず者国家では宮廷魔術師のようなことをやって、
大量破壊兵器の開発部門を手ずから統括しておった。そのことが西側自由世界に亡命した技術者グループの証言で知れて、間もなくウルジクスタンは多国籍軍の介入を受けたんじゃ。
国には落日が迫ったわけじゃが、そうすると今度は、
完成した分の弾頭と一緒に自分だけさっさとトンズラここうとした――」
「それは悪いヤツだね」
おせちが他人事の感がある相槌をうち、
「そうだな、人の晩飯を奪うくらいの悪だ」
皮肉屋のアシュリーは恨み言を差し挟む隙をのがさない。
「――すんでのところでわしは奴を討った!英国のブライス大尉を中心としたタスクフォース252と連携してな。1500年間待ち望んだ決着の瞬間よ!結果が逆だとすればおそらくヤツにとってもな……。しかしどうも、使命は完全には果たされなんだらしい……!」
「仕留め損ねたってこと?」
と、声を憂わせるとはちるにさなは抱きしめられている。そして、そのさなはというと、真後ろに控える本物のネコ人間をよそに、まるでネコのように――毛深い腕で作られた輪から胴体を弛く垂らし、無抵抗に収まっている。
はちるが彼女を下ろすと、きょとんとしたさなは、即座にその左足へ首を精一杯伸ばして寄り添い、
人に懐ききった動物の座り方のまま母を見上げる。
「いや。復活したんじゃ、おそらくは!……」
「……シャカゾンビというのは霊魂の操法において並ぶもののない魔術師でな、
霊力や未練なんかの、とにかくなんでもよいから強い残留思念の宿った屍を乗り継ぎしてはずぅ~っと死のさだめを逃れ続けておるのよ。
元は天竺のリシ(聖仙)らしゅうて、はじめ仏祖の御舎利に憑りついて蘇ったことからシャカゾンビと呼ばれておる。
とにかくのぅ、そういう能力の持ち主ゆえ元々ヤツを完全に滅することはほとんど不可能に近い。
そしてこの頃ついに、他ならぬこの日の本の地に奴の出現情報が出回るようになった」
「”この頃”って今回は何年のことなんだ?幕末?」
と、冷めた声でアシュリーが聞く。
「本当にここ数日の話よ!わし自身信頼のおける情報筋からその話を聞かされたのがつい1週間前のこと。みなしごのお前たちを引き取って育てることにしたのは、シャカゾンビを滅する使命を完全に果たしたという確信が中東での戦いで得られて、なればこそ余生は好きに過ごそうと思ったからじゃが、どーもワシの見立ては甘かった。
それでこのたび緊急の家族会議を開かせてもらったという次第じゃ」
一同で1番小柄な鬼の人は、腕を組むがまま、鼻を強気に鳴らした。
一見して静謐な水が、実は沸騰寸前の湯だったかのように、場はいつしか騒然としてきた。
だが、この事態をもたらした当の人物は、娘たちのあからさまな焦燥をもうしばらくのあいだ捨て置いて、こう語る。
「ひとつ運がよかったのは、小さい頃からお前たちに神通力のあつかいを念入りに教えておいたことよ。
習い事がわりにでもなってくれればでも思っとったが、ま~これはな、まっこと勿怪の幸いというヤツよの、覚えの早い小さい子にはなんでもやらせとくもんじゃ。
そのおかげで今ではみな、それぞれの得意分野ではわしをはるかに上回るほどのまじゅちゅs……まじゅ……魔法使いとなってくれた!」
「……フフッ!」
神妙な語り口調の母が、肝心なところで噛んでしまった――それがどうにも可笑しく、アシュリーは降ってわいた笑いをこらえきれない。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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