issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 02
「仙女……?」
おせちが、かろうじて囁く。
「どういうこと?」
さなが、疑念に満ちた声で問いただす。
「いや、だから仙女じゃ。お前たちは最初っから人間ではない」
尊は、至極当然のことを言うように頷く。
「えっ?じゃあ、拾ったって話は、嘘だったのか!?」
アシュリーが叫ぶ。その声には、自身の足場が崩れ去るような根源的な恐怖が滲んでいた。
4人は、信じていた親に裏切られた子どもの顔で、母を見つめる。
「違う違う、そうではない。同じ日に拾ったのは本当じゃ、そこは嘘ではない!」
尊は心外だとばかりに手を振り、ふんぞり返って続けた。
「――まず、おせち。お前は橋の下じゃ。川原にポツンと置かれた、やたらと上等な黒漆塗りの重箱……その1番上の段に、まるで伊達巻か何かのように行儀よく収まっておった。それで名前も『おせち』になった」
「……」
あまりに安直すぎる命名の由来に、おせちは思わず白目をむき、他の3人も絶句するしかなかった。
「で、アシュリー。お前は寺の山門じゃ。おせちを抱えて戻ったその足で、またオギャアと聞こえてな。
見れば、ユニオンジャックがこれでもかとド派手に描かれた、馬鹿でかいクッキーの缶カラ……その中に詰め込まれておったわ」
その具体的な描写に、アシュリーの記憶の奥底で何かがリンクする。
「……ああっ!?まさか、あの『小物入れ』か!?」
彼女が思わず叫ぶと、姉妹たちもハッとして顔を見合わせた。
「うちの台所の、棚の奥にずっとあるやつ?」
「ふたが外れなくて、みんなでマイナスドライバーでこじ開けたやつだよ!」
さなとおせちが口々に叫ぶ。幼い頃の記憶、生活の中に溶け込んでいた「単なる空き缶」が、まさか自分の揺り籠だったとは。
懐かしさと衝撃がない交ぜになり、場に奇妙な一体感が生まれる。
「で、さな、お前の場合は、それはもう見事なもんじゃった。裏山の泉に、後光のようにチンダル現象の光が差し込んでおってな。その光のど真ん中に、2柱の同族――まあ、西洋かぶれのキューピッドじゃが、ドデカいハスの花を『せーの』で浮かべようとしておったわけじゃ。
わしが物陰から覗いておるのに気づいた途端、片っぽが盛大に舌打ちしての。
『あーっ、ダメダメ!アジアの自然霊は節操がなくて!今、イチバン“奇跡感”が出るところなんだから!本番前に見たら効果半減でしょ!』
『悪いけど1回出てってもらえる?こっちも“降臨”の段取りってもんがあるんで』
と、まあ、すごい剣幕で追い出されてな。
で、しばらくして『もういいよ!』と呼ばれて、いかにも今見つけました、という体で泉に近づいてやったら白い花びらの中央で、まるでこの世のすべてに安寧をもたらすかのような寝息を立てておったのが、お前よ。
……それに比べて、はちる。お前は実に分かりやすかったぞ。何せ、ドカンという轟音と共に、境内に丸い宇宙船が墜落してきただけじゃからな。実に手間いらずじゃった」
そこでいったん言葉を切った彼女は、
まるで今夜の献立でも告げるかのような平板な調子で、さらりと続けた。
「そして、その日のうちに、お前たち全員に、とっておきの『仙丹』を飲ませておいた。
それだけのことよ。おかげで成長期が終われば、お迎えの時までもう、見た目は変わらん」
「……そもそも」と尊は、心底不可解そうに首をかしげる。
「お前たちは自分のことを何だと思っておったのじゃ?人間か?いいや。その本質は霊よ。その呼び方が気に食わんのなら他は仙女とか現人神とか覚者とか好きに名乗るがよい。
とにかくお前たちは大いにわし(神)寄り、だから代謝もないのよ。肉体のあらゆる作用を、魂の側で自在に制御できる。
ゆえに、ウチの家には来客用以外のトイレもなかろ?学校で級友らが化粧室に行ったり、制汗剤を使ったりするのを、今まで疑問に思いもせなんだか?」
あまりにも呆気なく明かされたその事実は、数1000年の時を生きる彼女にとって、庭の草木を剪定するのとさして変わらぬ、些事だったのかもしれない。
人の理に縛られぬ、より自由で、
より高みに属する存在として愛子に人生を謳歌してもらうこと――
それが、彼女にとってはじめの親心だったのかもしれない。
だが、子供たちの表情は、加速度的に――そして、ただただ人間的な感情に従って引きつっていった。
母の語り口は、封じていた彼女たちの記憶の扉をあまりにも無分別にこじ開けていく。
たしかに、他者との微妙な違いについての疑問は、いつもなあなあのままで済ませてきた。
数えきれぬ違和感――
小さく、しかし確かにそこにあった謎が、いま一斉に形を得はじめる。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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