issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 01
CHAPTER 3
後日……。
吉濱姉妹のたまり場たるはちるの部屋には、どこかぎこちない午後の気配が滞っていた。
窓から差し込む西日が、畳の上に気だるい光の四角形を描いている。
制服姿のはちるは、その光の縁に背を重ねて、所在なげに立ち尽くしていた。
自分のものとは思えぬほど滑らかな人間の腕を、いぶかしげに撫でながら、まるで借り物のように見つめている。
ゲーセンにたむろする中学生みたいな、パーカーとミニスカートの姿をしたアシュリーは、ベッドに身を投げ、肘ついた片腕を枕に、静かにその光景を眺めていた。
今そこにあるのは、昨日までの姿とは決定的に異なる、毛皮を脱ぎ捨てた姉妹の後ろ姿だ。
かつて彼女を包んでいた獣性は完全に剥ぎ取られ、マスコットめいた愛らしさは、遠い記憶の彼方にしかない。だが、その喪失がもたらしたものは、決して空虚ではなかった。
ユキヒョウの毛皮という1枚のヴェールを失ったその身体は、わずかに引き締まり、これまでは、幼獣の面影に上手く包まれていたその「本質」を、残酷なまでに露わにしていた。
それは、彼女という存在が本来――溢れんばかりに宿していた、豊穣なる“性”の気配である。
それは、「少女」と「女」の境界線で、危うい均衡がついに破られてしまった、その瞬間の、後には戻れないきらめきのようなこと。
内に秘められた肉体の熱量そのものが、官能的な気迫となって香り立ち、見る者の心を、抗いようもなく揺さぶるようになっていたのだった。
制服のチェック柄プリーツスカートに落ちる陰翳は、かつて毛並みが描いていた、細やかで曖昧さのあるものとは全く異なり、天頂にある三日月のようにどこまでも澄み渡っていた。
その布地は、ゆるやかな起伏を描きつつ、しなやかで張りのある臀部の曲線を、
一切の誤魔化しなく、忠実に浮かび上がらせているのだ。
肉感的な太腿から、ひかがみへと束なる強靭な腱へ――全身に満ちる張りは、今にも四方へあふれ出しそうな、若さの躍動そのもの。
丸みを帯びた胸の存在感は、薄いブラウス越しにさえ、見る者の心へ切実なほどの圧力を伝える。
その悩ましげな、わずかな身じろぎにさえ、生地は敏感に応じ、
香り立つような皺をいくつも刻んでいく。
――ちょうど、寝返りによってシーツに寄せられる、複雑な襞の連なりのように。
肉体のあらゆる曲線は、熱湯に風が触れたときのような揺らぎを纏い、
音もなく、しかし確実に、官能の蒸気を立ちのぼらせていた。
こうした一連の眺めに、いよいよ悪戯心を抑えきれなくなったアシュリーは、そっと声をかけた。
「……おめでとう」
「エッ?」
思ってもみない呼びかけに、はちるが体をぴくりと震わせ、蚊の鳴くような声で振り返る。
「これでカルテット・マジコは完成したな。このチームに唯一足りなかった最後のピースがなんだったか、お前わかるか?……ツルツルの巨乳だよ。他の誰でもない。お前がそれを埋めたんだ」
その一言が、張り詰めていた心の糸を、ぷつりと断ち切った。
はちるの肩がわなわなと震え、切れ長となった凄艶な瞳が、潤んでいく。
その絶世の美貌にはおよそ不釣り合いな、子供 のように大粒の涙が、ぽろぽろと、後から後からこぼれ落ち、そしてついに、堰を切ったように泣き出した。
「えーんえんえん!」
「あっ、泣かしちゃった!アシュリーのいじわる!」
すかさずさなが駆け寄り、その背を庇うように優しく撫でる。
「いけないんだ!モサモサの巨乳だって、ちゃんと魅力的だったじゃない!」
おせちも、心底呆れたという顔でその非難に加勢する。
そこから繰り広げられたのは、まさしく幼稚園の学級会。
1人の女の子を泣かせた意地悪な子を、他の2人が寄ってたかって責め立てる、微笑ましくも真剣な応酬だった。
その喧騒のさなか、ちゃぶ台でテレビを見ていた尊が、リモコンで音量を下げながら振り返った。
「しかし26世紀の科学力とやらには恐れ入ったのう。お前たちの極限まで強化されたホメオスタシスを軽く上回って
くるとはな」
あまりに場違いで、妙に感心したその口調に、一同の熱気は一瞬で冷める。
「ホメオス……」
「……タシス?」
おせちとさなが、未知の単語に顔を見合わせた。
「体の、恒常性のことだよぉ……」
ぐずりながらも、はちるがきちんと説明する。
「一見無限に思われたはちるの耐性にも、実は上限があった。そして、その膨大な許容量がかえって仇となり、ひとたび臨界に達するや進化もまた際限なく促された。それで、生命体に与えられた可能性の果てにまで肉体が到達してしまったのかもしれぬ」
まるで遠い星の出来事を語る学者のように、尊は自説を淡々と述べた。
その、あまりに無神経な分析が、はちるの心の最後の砦を打ち砕く。
「もう、みんなもゴリラになっちゃえばいいんだ!」
涙声で捨て台詞を吐くと、
「まあ、私としては、力が弱くなること以外はたいした問題じゃなかったな」
生来の肝っ玉が、異様に達観した一面さえも併せて与えるアシュリーが、あっけらかんと口を挟む。
「えーんえんえん!」
はちるは“ツルツルの巨乳”のまま体を丸め、子供のように顔を覆ってさらに激しく泣きじゃくる。
その痛ましい姿を前にしても、尊は眉ひとつ動かさない。
「本来ならな、毒も薬も一切効かぬはずなのよ、お前たちは。そもそも分類上は、人間ではなく仙女のはずじゃからな」
ただ何気なく耳をほじり、まるで他愛もない雑談のごとく、しれっと、こんな事実を差し出した。
そのひと言が、新たな波乱の火種となる。
さっきまでの姉妹喧嘩も、涙も、諍いも、すべての空気が一瞬で凍りつく。
尊がちゃぶ台に湯呑を「カタン」と置いたその音だけが、やけに鮮明に響き渡る。
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