issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 02 12
半壊した身体で、エイペックスはその光景を目撃する。
自らが刻んだはずの破壊の爪痕が、子供の悪戯書きのように、いとも容易く掻き消されていく。
それは修復などという生易しいものではないだろう。
彼の「行為」が、その「痕跡」が、ひいては「エイペックス・レジェンド」という存在そのものが、この世界から根本的にに拒絶されていく。
例えることもできぬ、唯一無二の感覚。魂が存在理由ごと消し去られていく、究極の絶望だった。
機械と一体化して久しい魂が、ようやく「無」という概念を、それも絶対に抗えぬ現実として思い出した直後のこと。
……そこから始まるのは、この世界における頂点捕食者が、格下の無礼な獣を一方的に蹂躙する様――エイペックス・レジェンドが、みずからの手で作り上げた存在によって完全な敗北を喫するまでの、長回しのワンシーンだった。
エイペックスの願いどおり「進化の極み」へと達した存在が、毛羽立つ筆先のような純白の闘気をその輪郭から揺らめかせ、ただ自然体のまま歩き出す。
その歩みには気負いがなく、1歩ごとに空間の理がしずしずと屈服し、景色がゆるやかに従う。だが、その瞳だけは、この世界の何ものも映さず、また何を映すことも欲しないかのように、ただひたすらに深遠な虚無を湛えていた。
対するエイペックスは、その絶対的な存在を前に、思考回路が焼き切れるほどの原初的な戦慄に襲われる。全センサーが「理解不能」「分類不能」と警告を発し、彼の論理は赤いエラーコードに埋め尽くされる。
左の目が負荷に耐えかねて爆ぜた瞬間、彼は残された右腕の砲口から、生存への本能的な祈りを込めて、無数のビーム弾を乱射した――。
だが、その必死の弾幕さえ、彼女にとっては鬱陶しい羽虫の群れにすぎなかった。
最小限の動きで放たれ続ける裏拳が、光の軌道を自然に捉えては、いとも容易く弾き返していく。
連発するビーム弾はどれも虚空をさまよい、背後のビル群へと次々に着弾し、都市の廃墟に小規模な爆炎を刻むだけだった。
やがてスヌープキャットは、どこか呆けた表情のまま、掌を差し出す。
その手のひらからは、ひと握りの葉、黄色い薔薇、オリーブ、コスモス、そして桃色のデイジーが、ほほえむように花開く。
彼女は掌を前へと突き出し、無垢な生命が育まれる奇跡の過程を、エイペックスに示す。
だが、窮した彼は、その最後の慈悲さえも、己への侮辱と受け取ってしまった。
「……うがァゥッ!!」
今まさに再生したばかりの腕で、眼前に広がる、おぞましいまでの生命の輝きを、左フックで掻き乱すように払いのける。
――誰が知るだろう?それらの花々に『平和』という花言葉が宿ることを。それはこの土壇場において、はちるの底抜けに優しい魂がなお示した、あまりに高潔で、あまりに無防備な、最後の和解の機会だったのだ。
「うぉァッッ!!」
続けざまに放たれる渾身の右ストレート。だが今度こそ、その拳が働く無礼は許されない。まるで雑貨屋の棚を吟味するかのように、ごく無造作に動くスヌープキャットの手がその拳をそっと掴み、そして無価値なものとして――あまりにあっさりと掻き捨てた。
それだけのことで、テクノオーガニックの強靭な片腕は、上腕から容易く引き裂かれた。
断面から露出したエネルギーパイプが、蛇のようにのたうち、火花を散らしながらも再生を始める。
だがエイペックスは、その狂乱めく光景を、ただ信じがたい思いで見つめることしかできない。
そして、固まったまま下を向く彼の輪郭に、陽炎めいた白いオーラの末端が、そっと触れる。
冷たい電流の走りが本能を直撃し、エイペックスは恐怖に駆られて顔を上げる。
目の前には、「生命の可能性」その極致。
その瞳に揺れる、現世を映さぬ曖昧な光が、いま初めて、排除すべき唯一の異物――すなわち自分だけを捉え、絶対零度の意志へと収斂していく。
機械の眼窩は、その魂を凍りつかせる戦慄を表現するには、あまりに無力だった。
ただレンズが無機質に収縮を繰り返すのみ――それが、精神の崩壊を如実に物語る。
そして、白くしなやかな指が、彼の首を、ゆっくりと、しかし天体の運行にも似た、抗いようのないはたらきで、掌握していく――。
機械の頭部を掴んだ白い手が、その鋼鉄の外殻を卵の殻のように圧し割ろうとした、その時――
檻を打ち破った家族の愛が、神へと昇華した姉妹の殺意を、最後の一線で食い止める。
オールラウンダー、イムノ、ミーティス、ホットショット。
4つの魂が、祈りをそのまま力に変え、光の化身と化した姉妹の身体へと、その存在ごと飛び込んでいく。
まるで鉄の輪に複数の鍵が絡みつくように、4つの影がひとつの光へと吸い寄せられ、互いに絡み合い、引き上げる。やがて、重なった影と光は、ひとつの存在へと収束し、ゆっくりと地面へと倒れ込んでいった。
舞い上がるのはわずかな砂煙。それと共に、純白のオーラも霧散し、神の時間は終わりを告げた。
あとに残されたのは、傷つき、息も絶え絶えに身を寄せ合う、ひとつの家族の――不格好で、しかし何よりも尊い輪郭だった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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