issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 02 11
「なあっ!?馬鹿な……!?我が文明の粋が、触れることすらできずに……!」
空中で咄嗟に体勢を立て直しながらも、エイペックスの精神はすでに敗北を認めていた。それでもなお、傲慢な自尊心が、最後の抵抗を己に命じる。
残された全エネルギーと怒り、そして絶望を、両掌の砲口に無理やりねじ込む。
万象を焼き尽くす黄金の破壊光線――26世紀の科学と一個の魂が持つ存在のすべてが、極大の抵抗意志となって、世界に1条の閃光を放った。
対するスヌープキャットは、そのすべてを、ただ無心に見ていた。眼前に迫る、すべてを無に帰す黄金の奔流。
その瞳は、しかし、ただ虚ろに澄み渡り、微塵の動揺さえ映さない。
やがて、彼女はおもむろに、その小さな掌を横に差し出す。その中心に――宇宙の創生の瞬きにも等しい、絶対的な1点の光が、
音もなく灯り始める。
「だめ、はちるっ……!それは、太陽に当てちゃダメぇ!」
それは予知ではない。因果の鎖を断ち切り、時空を超えてミーティスの魂に直接叩きつけられた、宇宙そのものからの警鐘。
太陽が黒く蝕まれ、すべてを飲み込む絶望の未来。その確定した光景が、彼女の精神を内側から灼き尽くした。
魂の絶叫が届いた刹那、スヌープキャットの肩が、肉眼では捉えきれぬほどにかすかに震えた。
世界の破壊さえ厭わなかったはずの絶対の一撃は、間際で軌道を変え、
ただ敵の攻撃を逸らすためだけの、きわめて精緻な1打へと変容する。
振り抜かれた掌から放たれたのは、凝縮されたビッグバンそのもの。「コマを投げるような」と形容するには、あまりに柔らかで軽薄な投擲。
だが、その緩やかな軌道には、空間を圧殺するほどの絶対的な質量が伴っていた。
手元を離れた1点は、またたく間に天を摩する光の巨塔へと爆発的な成長を遂げ、眼前に迫る灼熱の破滅と正面から激突した。
黄金と純白――ふたつの絶対がせめぎ合い、時空そのものが悲鳴を上げてきしむ。
だが、破壊は訪れない。プランク秒の後、スヌープキャットの純白の光が、黄金の破滅を柔らかく包み込み、そのベクト
ルを、抗いようもなく捻じ曲げていく。
誰の制御も離れた混淆の光条は、天を貫く絶望の矢となって宇宙の深淵へと突き進む。人知れず、太陽の彩層を冒涜する
ように掠め、その神聖な表面に、“あり得ざる黒い傷痕”を深々と刻みつけながら、無限の彼方へと流れ去った――。
次の瞬間、
「!!」
スヌープキャットの姿はエイペックスの目前にあった。
そこに“移動”という現象は、そもそも存在しない。空間が、より高次の理によってごく自然に“書き換わった”――それだけだ。
それは、宇宙という長大な詩から零れ落ち、誰の記憶からも消え去っていた禁断の1節が、
奥ゆかしく、しかし圧倒的な威光をもって蘇るさまにも等しかった。
その異象を前に、エイペックスの思考は完全に停止する。知性の果てにある畏怖ではない。捕食者を目前にした獣のごとき、本能的な恐怖。
ただその衝動だけが、彼に最大出力のフォースフィールドを展開させた。思考を挟まぬ反応は、まさに神速だった。
だが、すべては無意味だった。26世紀の科学技術が結晶した障壁。その光の壁に、彼女の白い指先は、
まるで水面に触れるように、いささかの抵抗もなく、静かに沈み込んでいく。
スヌープキャットは、殴らない。
障壁の内側で、ただ、揺るぎない意志を込めて、白い指をゆっくりと、だが確かに拳へと握りしめる。
その単純な掌握が、引き金となる。
ふたつの因果がそこで結び合い、世界の織り目に緊張が走る。
握りしめられた拳、その1点を中心に、空間そのものが爆縮し、
まばゆい閃光がエイペックスという存在を根源から外側へと弾き飛ばした。
彼の身体は光速にも近い弾芯となって、視界の果てへ際限なく吹き飛んでいく――。
神のごとき力を解き放ったまま、スヌープキャットは、重力すら支配下に置いてゆっくりと降下を始める。
遠く眼下、敵の墜落地点を、ただ無感情に見下ろしながら。
その空中での姿勢は、まさしく、かの「マン・オブ・スティール」が天空に静止する姿そのもの。背筋は1点の揺らぎもなく伸ばされ、
適度に開かれた両の手は腰元で力強く静止する。片足は天を支える柱のように真っ直ぐに、そしてもう片方の足はわず
かに膝を曲げ、完全な均衡と、内に秘めたる力を示していた。
やがて、その伸ばされた片足の爪先が、ほとんど音もなく、羽根が舞い降りるように、そっと地面に触れた。
しかし、彼女の足がむき出しの大地を踏みしめることはなかった。
スヌープキャットがただ1歩、また1歩と歩みを進めるごとに、世界は逆巻く時の流れに巻き込まれていく。
砕け散ったアスファルトは無垢な道へと還り、
歪んだサイバーパンクの高層ビルは天へ向かって真っ直ぐ聳え立つ。
虚空に消えたホログラムの広告群は再び猥雑な光の言葉を紡ぎ、
割れたガラスは音もなく窓枠へ舞い戻る。
その歩みの軌跡こそが、因果律を巻き戻し、破壊を創生へと還元する、神の御業そのものだった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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