issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 02 10
「……くそぉっ……!」
こめかみから激しいスパークを迸らせ、機械じかけの獣は、生まれて初めて覚える屈辱に咆哮する。
「全兵装、最大出力!あの忌まわしき光を、宇宙の塵にさえならぬほど、跡形もなく消し去れぇっ!」
その絶叫は、機能を停止したはずの鉄の怪物に、最後の命令を刻みつけた。墜落した円盤が、断末魔のように軋みを上げ、その全身から、おびただしい数の砲門を、まるで無数の泡のように、一斉に突き出させた。
ミサイル、レーザー、プラズマ弾。あらゆる種類の『死』が、物理法則の極致たる出力と軌道で空を埋め尽くし、ただ1点の白い光――スヌープキャット――を葬るためだけの、終末の弾幕を形成する。
だが、そのすべてが、無意味だった。
スヌープキャットの飛翔は、物理法則の支配下にない。それは回避ではない。攻撃が放たれたその瞬間、彼女は、すでにその軌道の未来に存在しないのだ。
光が鏡面を跳ね返るように、思考が次元を跳躍するように、
因果律それ自体を置き去りにした絶対的な存在。
白いオーラの残光だけが、彼女が「かつてそこにいた」という事実を、
まるで過去の幻のように証明する。直角に、鋭角に、三次元の理を嘲笑うかのように、
彼女はただ、在るべき場所へと、静かに「転移」していた。
「馬鹿な……なぜだ!?なぜ当たらん!未来予測も、確率論も、私の築き上げたすべての計算が、あの光の前では意味をな
さないというのか……!?」
天を埋め尽くしたはずの終末の弾幕は、しかし、ただの1度も、その中心にある1点の光に触れることはなかった。無数の死が、まるで美しい光の舞いを彩るためだけの、壮大な舞台装置と化している。
それは、あまりに絶対的で、あまりに理不尽な、神と人とを隔てる力の差。
その絶望的なまでの光景を、檻の中から見つめる者たちがいた。
「はちるのオーラ……しゅごぉい……!」
檻の土格子を握りしめ、ミーティスが、その光景に魂を奪われたように、感嘆の声を漏らす。
「じゃが、あれは……」
一方でオールラウンダーは、信じがたいものを見るように目を細める。
「人の姿になっておらんか?」
その言葉に、イムノが檻を掴みながら、まるで長年の謎が解けた大発見のように、
ひとり納得して力説する。
「……そうか!そういうことか!獣人がゴリラのエキスを過剰摂取したことで、種の限界を超えた突然変異……アセンションが引き起こされたんだ!」
その珍妙な理屈に、ホットショットは心底呆れたように吐き捨てた。
「そうかな……そうかも。……まあ、どうでもいいか。とにかく、やっちまえ!」
スヌープキャットにとって、その飛翔の軌跡そのものが、敵の心を砕くための無言の反撃だった。彼女はあえて速度を緩めず、無数の光線が死の格子を描くその中心を、すべての結果を見越した上で、毅然として突き進む。
降り注ぐミサイルが描く劫火の華。その爆炎を、彼女は古い衣を脱ぎ捨てるように突き抜け、その純白の闘気は、モミの木を想わせる刺々しいシルエットを描き続ける。その肌には、ただの1片の煤さえ付着することはなかった。
あまりに絶対的な、そして非論理的な力の差。クロムメタルの類人猿は、初めて「絶望」という感情にその精神を完全に支配された。いぶし銀な色合いをした合金製の顎が、
軋みを上げ、砕けんばかりに噛み締められる。
「ええい、ままよ……!ならば、この星ごと、貴様を道連れにしてくれる……!」
もはや理性は跡形もなかった。エイペックスの動機を支配していたのは、ただ己の敗北を認めぬ幼児の癇癪にも似た狂気。
墜落した円盤は、最後の切り札として沈黙を破り、地を穿つ断末魔の咆哮とともに、残骸と化した都市の骨組みを激しく震わせる。
半径200mの船体が自律起動を始め、装甲の継ぎ目という継ぎ目から、自身の命を燃料とする、危険極まりないオーバーロードの赤光を漏れ出させた。
「……観測終了。実験個体は、我が理解を超えた規格外の変異を完了。――よろしいッッッ、ならば、サンプルの完全破棄に移行するゥッッ!――」
その声は、科学者としての冷静さをかなぐり捨てた、狂信者の絶叫だった。
「――この取るに足らない星ごとぉぉ!!!宇宙の塵と化すがいい!!!!!」
宣言と同時に、船体全体がひとつの巨大な質量兵器へと変貌した。
起動音は天地を貫く轟きとなり、超質量の円盤が浮上するや、かつて都市だった土地は、その衝撃波に根こそぎ引きはがされ、虚空へと四散する。
船体の全質量が、いまや純粋な破壊の概念そのものへと昇華されていた。
鋼鉄の嵐という表現さえ生温い。それは、人間の生涯において決して2度とは放てぬ、絶対的な殺意の昇華だった。
円盤は咆哮とともに一直線に射出され、その軌道にあるすべてを、通過するだけで消滅させていく。
粉塵と摩擦の閃きが、最後の叫びと一体となり、すべてを呑み込んでゆく。
その極限の絶望が、ただひとつ、純白の光へと迫っていた。
――だが、その絶対すら、彼女には届かない。
完全なる存在へと昇華したスヌープキャットを包む、ただ静やかな純白のオーラ。
円盤の装甲がその光に触れた瞬間、宇宙の物理法則はより上位の理によって音もなく書き換えられる。
それは侵食ではない。破壊ですらない。
ただ、在ったという事実そのものを、無かったことへと還す、絶対的な否定の御業。
轟音は生まれ落ちる前に深淵へと還り、質量は意味を剥がされ、
運動エネルギーは、その名さえも忘れ去られる。
巨大な円盤は、彼女という完全な1点に到達したその箇所から、まるで太陽に触れた1波の雪風のごとく、輪郭から静かに、そして音もなく解けていった。
鋼鉄の巨体は粒子となり、存在の痕跡すら残さず、すべてが失われていく。
やがて、光の粒子さえも逆巻く風の中に優しく散り、すべては、うたかたの夢。
あたかも、最初から何ひとつ存在しなかったかのように――何もかもが、無音の夢へと還ったのだった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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