issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 02 05
長い土煙を上げて転り続けたその体。だが、そこからゆっくりと起き上がった姿は、すでに学生服の剣士としておなじみのものではなかった。
引き裂かれたブレザー服の下で、今度は、鮮やかな黄色の体毛に覆われた筋肉が怒りと苦痛に脈打っている。
――イムノは、再びゴリラへと姿を変えさせられていた。その手で、地に落ちたガンブレードを拾おうとするが――
「だめだ……!」
不器用な指がトリガーガードをまさぐるだけで、もう、自分の武器すらまともに掴むことができなかった。
*
……エイペックス・レジェンド、出生名を「パイプコック・ジャクソン」。
彼は、類人猿が地球の支配者として君臨し、そのまま宇宙を統べる超巨大文明となった26世紀の時間軸から来た、ゴリラ種の天才科学者である。
時空観測の研究を進める過程で、ジャクソンは、みずからの歴史には存在しない、超常的な能力を持つ個的生命――すなわち「超人」の存在を他の並行世界に発見する。
彼はその力を、猿の帝国の盤石さを揺るがしかねない潜在的脅威と見なす一方、その発生原理を解明し再現できれば、全マルチバースの征服すら可能になるものだと確信した。
この野望を実現するため、最初の実験場として選ばれたのが「カルテット・マジコ」の地球だった。
観測範囲内でも最も文明レベルが低く、しかも時代は「猿人革命」の発端となる2040年代。
ジャクソンにとってはまさに千載一遇の好機だったのである。
彼はこの世界に介入し、己が世界が成し遂げた「エイプがサピエンスを制した栄光の歴史」を移植することで、頂点の捕食者たる彼らの支配を、全次元に対しより完全な形で確立しようと目論む。
この超種族主義者のヴィランは、26世紀のテクノロジーを惜しみなく搭載したテクノオーガニックのボディを持ち、さらには極めて厄介な必殺技を備えている。
両の眼から放たれる、不気味なビーム。その光をひとたび浴びてしまえば、ホモ・サピエンスは、遺伝子を根幹から書き換えられ、彼の『同族』――すなわち、ゴリラへと変貌してしまうのだ。
問題の本質は、その変身がもたらす「身体能力の変化」にある。常人であれば、これは確実な強化となるはずだが、超常の力を宿すカルテット・マジコの4人にとっては話が違う。
ゴリラに毛が生えた程度の身体能力など、本来の戦闘力から見れば無に等しい。
皮肉にも、この「強化」とは、彼女たちの力を著しく奪う呪縛――まさしく「デバフ」に他ならなかった。
事態を深刻にするのは、この異様な外見では後方支援すらままならないということ。
人々を安心させるどころか、むしろ恐怖や混乱を招きかねず、
本来、鎮圧すべき混沌を、逆に助長する危険性すらあった。
こうした事情から、市民の避難誘導などの任務は、今回はもっぱら“母”オールラウンダーが担うこととなる。
……幸い、変身効果は永続ではない。時間さえ経てば、彼女たちはふたたび屈強な戦闘員へと戻ることができる。結果として、この決戦は極めて奇妙なルールのもとで進行することになる。
――ビームを浴びてゴリラ化した者から前線を離脱し、「休憩」に入る。そして、効果が切れるまでの間、暇を潰しながら、仲間との交代を待つ。
*
「おせちぃっ!?こんのぉっ……!」
無残な姿と化した相方を前に、スヌープキャットが絶叫した。しかし、彼女の爪はエイペックスの金属の胴体を掠めるだけ。機械仕掛けの肉体は、あらゆる攻撃を舞踏の一幕であるかのようにいなしていく。その圧倒的な“隔たり”に、決定打は一切生まれなかった。
「はっはっは!」
その間にも、分離した頭部は空中の1点に陣取り続け、紅蓮の眼に再び汚染の光を凝縮させ始めた。
「くそっ……!」
学生服をまとう金色のゴリラと化したイムノは体を無理に起こし、不器用なナックルウォークでその場を必死に逃れようとする。しかしその巨体を、黄色の光線が、執拗に追尾しながらなぞった。
「うあああああああっ!!」
『創生の光』がイムノの体表を焼き、弾き飛ばし、その精神ごと、歪な獣の鋳型に固定しようとする。
エイペックスの高らかな説教が、廃墟と化した街に不快なほど響き渡った。
「もういい加減、君を『完成』させてやろう、カルテット・マジコの司令塔よ!あと10秒……その光を浴びれば、君も劣等な肉体の軛から解放され、我々のような高次の存在へと至るのだ!そこに何の不満がある!」
イムノの抵抗が、まさに尽きかけたその時――
1条の白い閃光が、空気を裂いて飛来する。
ミーティスが、思考を置き去りにするほどの速度で戦場に突入し、
宙を滑る動作のまま片腕を伸ばしてイムノの体を強引に引き剥がしたのだ。
コンマ1秒後、イムノがいた空間を薙ぎ払った改変光が地面に直撃する。
しかし、その破壊光線は、視覚的な演出のみにとどまり、物理的な破壊は一切もたらさなかった。
ミーティスは衝撃波を立てて走り、瓦礫の山へと、膝を折りながらドリフトすると、イムノを慎重に地面へ降ろす。荒い息を整えつつ、遠くに立つ機械の獣を鋭く睨みつけた。その可憐な敵意を受けて、エイペックスはゆっくりと、乾いた金属音を響かせ侮蔑的に笑う。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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