issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 02 03
時折、重力の負荷に耐えかねた金属の音が静寂を裂き、あちこちで瞬く小さな炎が、この世の終わりのような情景に不気味な影を落とす。
やがて空に咲いた最後の衝撃波、その白い光輪の中心から、1本の光条が流星となって地上へ伸びた。空気をつんざく甲高い飛翔音とともに、光の針は寸分の狂いもなく、ジョルバスクル・タワーの中腹を貫く。
一瞬の閃光が夜のごとき空を白く染め、続く瞬間、ビルの1層が内側から凄まじい轟音と共に破裂した。ガラスとコンクリート、オフィスの備品の残骸が黒煙と混じり合い、圧縮された奔流となって横方向へと噴き出す。
そして、その爆風と瓦礫の中から、もつれ合う1つの影が砲弾のように撃ち出された。地面への墜落よりも、まだ横方向へと旺盛に伸びていく勢いが勝るその弾道は、スヌープキャットと、”エイペックス・レジェンド”と自称する機械仕掛けの猛獣が、はなはだ荒々しく掴み合う姿そのものだった。
やがて、その緩慢な墜落の最中に、世界の時間が止まったかのような一瞬が訪れる。結界の向こうから、濁った斜陽が差し込み、エイペックス・レジェンドの全身を頭からじっくりと照らし出していく。
それは、テクノオーガニックの装甲に置換された肉体を持つ、完全なるサイボーグ――銀色のゴリラだった。鏡面仕上げのクローム外装に複雑な分割線が走り、体内のサーボが重々しい唸りを響かせる。つぼみ状の背部スラスターが途切れとぎれに閃光を散らし、
顔があるべき場所では、表情筋を模した無数の金属片が悪夢のようなモザイクを成す。
絞り羽のある眼窩で、紅蓮の光学センサーが冷徹な殺意に燃え続けるなか、
金属の顔面を構成する無数のピースが、つぎつぎと連動し、軋みを響かせながら変形していく。
その巨体は、両腕でスヌープキャットの肩をがっしりと鷲掴みにし、動きを封じたまま、至近距離から彼女の顔をじっと見上げていた。それは、まるで「睨みつける」という動作を、機械が精密に再現しているかのごときプロセスだった。
その冷たい殺意を前に、スヌープキャットは果敢に吠える。
「ウチは獣人だけど、別に今の世界でも困ってないよ!みんな優しいもん!」
彼女の毅然とした声に、エイペックス・レジェンドの表情がさらに険しく歪む。
「優しいだと?まさにそのっっ、馴れ合いこそが問題なのだ!
本来この2040年代はサルとヒト、この両者の、種の存亡を懸けた闘争によって、歴史が正しい方向へと収束すべき分岐点!貴様のような『超人』というイレギュラーさえ生まれなければな!」
鉄の歯牙を覗かせながら、エイペックス・レジェンドは知的な絶叫を上げた。
「――だがこれは好機でもある!この実験場に、我が時間軸の『サルがヒトを制した栄光の歴史』を移植し、超人という変数がどのような結果をもたらすか観測させてもらう。お前たちの世界は、全マルチバースを類人猿の支配下に置くための、礎となるのだぁ!」
「あなたの言ってること、全然意味わかんない!」
スヌープキャットは猛然と吠え、その拘束を力任せに引きちぎる。空中で体勢をひねると、そのまま落下エネルギーを回転へと変換し、渾身の拳を振り抜いた。
「――同じ星の仲間なら仲良くするのが筋でしょ!」
肉球を宿した拳が、金属の頬を重い衝撃とともに打ち砕く。火花と金属片が飛び散り、ゴリラの体躯がわずかに傾ぐ。
だが、エイペックス・レジェンドは怯むことなく応じた。
「……それが弱さだと気づかぬか!」
背部スラスターが最大出力で噴射され、エイペックス・レジェンドは瞬時に体勢を立て直す。
そのままスヌープキャットを突き飛ばし、鋼鉄の裏拳を風のような速さで繰り出した――彼女の胴を撃ち抜くかのごとく。
「ぐっ…!」
短い悲鳴とともに、スヌープキャットの身体は、エイペックス・レジェンドの鋼鉄の腕によって紙屑のように弾き飛ばされた。
――ズガガガガァン!
その勢いは止まらず、彼女は数ブロック先の高層ビルへ一直線に打ちつけられる。コンクリートの外壁を突き破り、いくつものオフィスフロアを荒々しく抜けながら、ついには反対側の窓ガラスを割って、粉塵とともに、ふたたび夜めく空へと放り出された。
そこへ、主・エイペックス・レジェンドの意志を反映した”牙”が殺到する。
自律飛行型の重火器群が、獲物を追う鳥の群れのように空を覆い、尻尾で折れた鉄骨の先端を掴もうとする彼女のところに、競いながら降下しつつ執拗な一斉掃射を浴びせた。
実弾と光弾の嵐がスヌープキャットの身体を何度となく打ちのめし、時間差なく起こる爆発が、彼女の姿を炎の中に呑み込んだ。
空に巨大な火球が花開き、かりそめの暗夜を一瞬だけ昼のように照らし出す――。
「――ソイルッ!」
その号令に、イムノのガンブレードが応える。薬室で2種の魔法弾が連鎖的に起爆すると、後方への凄まじい推進力――銀色のエネルギーが液体めいて遡上し、少女の輪郭を塗り替えていく。銀の波は刹那のうちに彼女を白銀の戦闘装束へと再構築し、その姿のまま、彼女は屋上へと舞い降りる。
肥大化したガンブレードを、さながら巨大な錨を降ろすかのように叩きつければ、着地と同時にコンクリートの床は放射状に砕かれた。
パラペットに無理に固定された砲身が、寸分の狂いもなく頭上の敵を捕捉する。
その瞬間、エイペックス・レジェンドの光学センサーがわずかに音を立てる。レンズの周囲を取り巻く絞り羽状の機構が急激に収縮し、
彼の視界には高速で解析データがスクロールされていく。たった一瞥するだけで、彼は対象の攻撃レベルを冷徹に算出していた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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