Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 01 17
ミーティスに課された試練は、突如としてその姿を現した。
境内の大庭、古びた羅漢堂の長方形の側棟。その窓が手前から奥へ次々と炸裂し、
重厚な扉が内側から蹴り倒されて砕ける。開いた無数の穴からは、黒い影が一斉に噴き出した。
彼らは2つの群れに分かれ、即座に行動を開始した。ある者は前転で境内へ飛び出し、
陽光の下、濃い影を剥いで銀色の外装甲を閃かせれば、身を翻して屋根瓦へ舞い上がった。
左手で忍びの印を結び、右手は背負い刀の柄にかけ、電線の上に溜まったカラスのように、今のところはじっくりと下界を睥睨する。
他の一群は、ただちに動き出した。軒下に踏みとどまり、緻密な歩調で地を進み、鬼気迫る殺気をまといながら、腰だめのライフルで移動中のミーティスへ熱烈に実弾を射かける。
「あっ、そういうの!」
かくしてミーティスは、不意打ちで現れた原子力ニンジャアンドロイドの2個小隊を相手に、すべてを討ち果たす試練へと身を投じた。
防衛費の潤沢な大国の軍隊では、近年、完全自律型のロボット兵団はもはや珍しい存在ではない。
銀光りの頭巾をかぶり、目の位置には赤いライトが威圧的に灯る鋼鉄の戦隊を左手に望み、
ミーティスは重心を傾け、境内を半周して交戦の意志を示す。
その動きに応じ、無数の札が一斉に一方向へとスライドし、集団ごと壁のごとき形を成して防御にあたる。はじめに襲来した鉄製の弾丸は、空気に張りつくように浮かぶ呪符たちが醸す力場の上でかすれ、
霊的エネルギーの可視化として無数に湧き立つ紫の波紋に触れながら、やすやすと火花を散らしていった。
空間の一面を隈なく埋めつくすのではなく、あえて間隔をたもって配置された呪符たちは、それでもなお障壁として完全な機能を保ちつづけ、ミーティスの細やかな方向転換にも一切の遅れを見せなかった。
一方、ドローンアーミーのうち片方のチームは、忍者特有の高ケイデンスな走り方で地を駆け、
ミーティスとの衝突点に達するや否や、飛びかかるようにして群がっていく。
彼らは、抜き放ったタングステン合金製の日本刀を、次々と振り下ろしながら襲撃の輪を狭めていった。
伸びきった鞭を巻き戻すかのように、ミーティスは頭上呪符を一気に引き戻した。
群衆の間を駆け抜ける迷惑なスケーターのような身ごなしで、次々と敵をいなしながら、接
近してきた相手に向けては、手持ちの呪符束を払い上げるようにして放っていく。
そのたびごとに、ロボット兵たちは何体かまとめて宙へと舞い上がり、
剣光が乱れひらめく人垣は次第にほどけていき、やがて一方から、
ロボットの塊がひときわ大きく吹き飛ぶことで、囲み自体が決壊する。
濛々たる煙のなかからその身を現し、圧倒的な直進力で山門まで到達したミーティスは、
その場で踵を返すや、慣性を活かして後退しつつ一瞬足を止める。
ひどくダブついた袖を大きく交差させると、彼女の後背にいちど広く展開されて、
余勢の緊張をそこに漲らせていた札たちが、敵の群がる方へと、
先ほどせり上がってきたときとまったく同じ軌道をなぞりながら、一斉に滑り降りていった。
生命力が込もるミーティスの札には、3種類の基本的な活用法がある。
第1は、空間の任意の位置に吸着し、外部からの負荷に対して驚異的な抵抗力を持つ力場を生成すること。
第2は(今回は披露されないが)、貼り付いた対象にエネルギーを分与し、ある程度の損傷を回復させること。
そして第3は、込めたエネルギーをオーバーロードさせ、純粋な破壊力に転換することだ。
上下方向にうねる奔流と化した無数の札は、その、波のような律動のままに心地よく戦場を駆け抜けていく。
それらは、援護射撃を行っていたロボットたちを含む敵小隊のあいだ――ちょうど彼らの胸元の高さを狙いすまして通過し、瞬間、おびただしい小粒の爆発と化したのだった。
その、音が、空気が、炎の余韻が収まったあと、砂利の平野に立っていたのはミーティスひとりだけだった。かくして、彼女は試練を制したのである。
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