issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 05 30
今、その禁断のコードが実行され、現実が、定義を失って崩壊していく。
裂け目の向こう、光さえ届かぬ深淵で何かが蠢く。そこから現れたのは、悪夢そのものが形を成した光景だった。
鏡面の奥から、新たなゲートが産み落とされる。
産声も待たず、その“子”は次なる“孫”を吐き出す。誕生と増殖が、もはや区別できない速度で連鎖していく。まるで万華鏡の中で砕け散った無数の鏡が、それぞれに新たな万華鏡を映し出し、無限に繋がり合うような、狂おしき自己増殖。
それは、時空そのものに芽生えた、機械仕掛けのがん細胞だ。
幾何学的な円環が、現実の織り目を喰い破りながら指数関数的に分裂し、巨大で歪な紋様を、
電子の叫びと共に空洞の隅々へと押し広げていく。
海さえ呑み込むはずの広大な地下空洞も、その異常な増殖に耐えきれなかった。際限なく膨張する機械の集合体は、やがてみずからが作り出した超質量と圧力に苛まれて、内部から軋みはじめる。金属と岩盤が断末魔の轟音を立て、圧壊する円環が、死にゆく星のような光を放って連鎖的にショートしていく。制御不能の増殖は、それ自体の重みによって、ついに壮絶な自壊へと転じた。
背後で鳴りひびく歪な音を振り切るように走る、少女たちの瞳には、宇宙の終焉を早回しで見るかのような光景が焼き付いていた。自分たちが解き放った「小なる無限」が、自壊しながら現実を飲み下していく。
その神話さえも超越したカタストロフを前に、彼女たちは祈ることも、叫ぶことも忘れ、ただ生き延びるという本能だけを頼りに、崩壊する世界を駆けるしかなかった。
*
……一連の喧騒から遠く、シャカゾンビは、打ち捨てられた古い地底回廊を歩んでいた。供は、今となってはプロディジーとハヴォック、そしてカーディBの3人のみ。主人の権威が失墜し、カルテット・マジコのみならずあらゆる勢力から追われる立場となった今、彼らの素朴な忠誠心だけが、この亡者の最後のプライドを支えていた。
その時、不意に、闇の奥から甲高い声が響いた。
「もし、そこの骸骨」
シャカゾンビは足を止め、声のした方角を油断なく睨む。
するとそこには、曲がり角の奥から、ぬらりとしたピンク色の触手を持つ、異形の生命体が姿を現していた。
「……あのマルチバーサル・ゲートを造ったのは、お前でちゅか?」
その問いに、シャカゾンビは尊大な態度を崩さぬまま、しずかに頷く。
「いかにも。あれは、吾輩の作だが」
「わちきの名はマクロブランク」
脳の怪物はそう名乗ると、シャカゾンビの全身を、値踏みするようにじっくりと観察した。
「……あのゲート、設計思想は悪くないでちゅ。原始的で、非効率で、ツッコミどころ満載のポンコツでちたが、この星の低い技術水準で、よくぞまあ、あの『トポロジカル・コンコード』の基礎理論に独力でたどり着いたものでちゅ。その1点においては、感服したでちゅよ」
その、侮辱と賞賛が入り混じった評価に、シャカゾンビは不快感を隠しもせず、ヤギ頭の杖を握る手に力を込めた。
「……貴様、何が言いたい」
「実を言うと、わちきがお前のマルチバーサルゲートを乗っ取ってこちらの世界にワームを呼び込む手助けをちました……」
「なにぃ?」
「……そこで取引でちゅ」
マクロブランクは、2本の触手を器用に組み、ビジネスマンのような口調で言った。
「……わちきは、異世界からこの宇宙に引き込まれてしまった知的生命体でちゅ。
故郷の宇宙に帰りたいのでちゅ。しかし、カルテット・マジコという小娘どもと交わしていたその約束は今となっては破られてしまいまちた。
夢を実現するためには、より高精度で安定したゲートが不可欠でちゅ。わちきの頭脳と、
お前のその、原始的ながらも確かな技術力。これを組み合わせれば、もっと完璧なものが造れるはずでちゅ」
シャカゾンビは、しばし沈黙のうちに思考を巡らせた。この奇妙な生物の言葉に、嘘はないように思える。そして、その知識は、オールラウンダーの娘どもやテラリアンに対抗するための、新たな切り札となりうるかもしれない。
眼窩の奥に宿る光を冷たく揺らめかせ、彼は静かに問うた。
「カルテット・マジコは、貴様にとって敵か」
その問いは、マクロブランクの思考回路に一瞬のノイズを走らせた。脳裏をよぎるのは、自分を「マクちゃん」と呼び、涙ながらに抱きしめた少女の姿。
あの、偽りのない優しさ。しかし、それも今は、故郷への道を断った裏切り者の顔
に他ならない。彼はわずかに明滅する迷いを怒りで塗り潰し、触手を硬直させながら、絞り出すように答えた。
「……そういうことになりまちゅな」
その声に含まれる絶望と憎悪の色を、シャカゾンビは満足げに聞き届けた。それで十分だった。
「フム、まあ……よかろう。貴様の知識、そして吾輩の魔術と技術。互いの目的のために、一時、手を組むとしよう」
「……交渉成立でちゅな!」
マクロブランクの“顔”が、喜びに輝いた。
「ただし」
と、シャカゾンビは言葉を続ける。その眼窩の奥で、青白い光が冷たく揺らめいた。
「――吾輩を裏切るようなことがあれば、その脳髄ごと宇宙の塵に還すことになる。覚えておくがいい」
闇に閉ざされた古い回廊で、ふたつの異質な悪意が、ひとつの盟約を結んだ。
それは、カルテット・マジコにとって、そして、地球そのものにとって、新たな厄災の始まりを告げる、
凶星の輝きに他ならなかった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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