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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
issue#02 UNDERTALE

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issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 05 27

その背後、昇降機へと向かうテラリアキングが、1度だけ足を止めた。

側近に支えられながら、彼はゆっくりと顔を上げる。暴走するワームの群れを、逃げ惑うカルテット・マジコを、そして《緑の空洞》の広大な天蓋を、生涯忘れまじ光景としてその目に焼き付けた。


その口元に浮かんだのは、敗北者のものではない。

すべてを道連れにする者だけが見せる、歪んだ満足の笑みだった。


「――ハッ、小娘どもが。これで、あのワームを制御する術はなくなった」


滑り出した密室の扉が閉じる直前、彼は乾いた独白を吐き捨てる。


「いずれ奴らは、この空洞を喰らい尽くし、脆弱な天蓋にも牙を剥く……。結局、俺が手を下さずとも、勝手に地獄は出来上がるってわけだ。じゃあな、小娘ども。――干からびた世界で、また会おうぜ」


……カルテット・マジコとワームの軍勢が霞がかった地平線へと姿を消してから、10数分が経った。


いちはやく静けさを取り戻した《緑の空洞》の一端には、巨大な円環装置の低い駆動音だけが響きわたる。

装置のふもと、1つのコンソールに張り付くように、不定形な影がひとつ。マクロブランクだ。そのゼリー状の体から伸びる触手が、まるでピアニストの手のように制御盤の上を滑り、誇らしげにゲートを管理している。


「やれやれでちゅ。このワチキに留守番を任せるとは……まあ、ゲートを完璧に扱えるのはワチキだけでちゅから、当然の采配でちゅがな」


その独り言を切り裂くように、甲高いアラートが空洞を打ち据えた。安定していたはずのゲート鏡面が、悲鳴を上げて激しく波立ち、赤い警告灯がマクロブランクの体を血の色に染め上げる。


「な、なんでちゅか!? こちらからは何も操作していない!……まさか、外部からの強制接続――いったい何が……!」


思考を置き去りにして、ゲートがまばゆい光の奔流を吐き出した。やがて光が収束していくその奥から、静謐な宇宙が姿を現す。


ゲートの向こうに広がったのは、壮麗な深淵。無数の星々が意志を持つかのように明滅し、色とりどりの星雲が巨大な渦を巻く。光の届かぬ暗黒が、それらすべてを繋ぐ骨格のように、無限の空間を支配していた。


だが、マクロブランクの魂は、それをただの宇宙として認識しなかった。脳髄だけの不定形な身体に、失われたはずの記憶が奔流となって駆け巡る。


「ああ、これは、”わちき”でちゅ。……わちきの『本体』が、失われた思考器官ブレインを探しているんでちゅ――」


彼の悟りが、眼前の光景に真の意味を与える。あれは、生ける銀河系。星々の光は神経線維を伝うパルスであり、渦巻く星雲は脈動する臓腑なのだ。そして、直径150mのゲートというちっぽけな窓から垣間見えるのは、その存在の、おそらくは細胞ひとつにも満たない、ほんの末端の断片にすぎない。


ゲートの向こうで、ひとつの恒星が歓喜に満ちて橙色に脈打つ。超新星爆発の残骸は、音もなく無数の結晶と化し、ダイヤモンドダストのようにきらめいた。それは、多次元宇宙が内包する無限の可能性を越えて、唯一の正解たる失われた半身――この次元に存在する「自分」を探り当てた、「もうひとつの彼」の昂揚の現れだった。


どうしようもなく巨大で、どうしようもなく根源的な自己との再会。

マクロブランクは、みずからの本来の姿を前に、ただ言葉もなく、その無限の光景に打ちひしがれていた。


「……ごめん!マクロブランク、急で悪いんだけど」

そこに、切羽詰まった声と共に、複数の足音が雪崩れ込んできた。ゲートの異常など意に介する余裕もなく、イムノが叫ぶ。


「勝つには勝ったんだけど、敵のフェロモンでワームが全部暴走しちゃったんだ。このままじゃこの空洞もテラリアの本土も、海さえ危ない。いますぐ別のチャンネルを開いて――!」


だが、マクロブランクは呆然とした顔で4人を振り返るだけだった。

その視線に導かれ、少女たちもまたゲートの鏡面――その向こうに広がる深淵に目を向け、言葉を失った。


そこに広がっていたのは、神の肉体そのものだった。無数の恒星が知性を持って脈打ち、星雲が臓器のように生々しく蠢く。彼女たちは直感した。

この、名状しがたい存在こそが、目の前の小さな怪物の「本体」なのだと。


そのあまりに神話的で、途方もない存在感を前に、4人はしばし立ち尽くす。地底で繰り広げた死闘の記憶さえ、この場景の前では、まるで些細な子供の遊びのように色褪せていく。宇宙的な戦慄が、彼女たちの全身を貫いていた。


「これは……うぅん。悪いけど、今はこっちも大事な場面なんでちゅ」

マクロブランクは、どこか気まずげに、はぐらかすような口調で答える。


「ねぇ?何これ!?君は何をしようとしてるんだい?」

イムノが、めずらしく取り乱した声を上げる。


「……えっと……わちきは、還るんでちゅ。あれが、わちきの本来の体でちゅから」

バツが悪そうに、マクロブランクは呟いた。


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

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