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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
issue#02 UNDERTALE

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issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 05 19

……それから数時間が過ぎたわけだが、元より人工の灯火と溶岩の流れに照明事情の一切を託すラバシティの景観は、まるで凍りついたように変わることがない。

非常事態下であれば、なおさらのことだ。都市全体を包む熱と光は、時の流れさえ拒むかのように、ただ赤黒い明滅を繰り返している。


「……とりあえず、誰も動くに動けない状況を作れたのは良かった。

テラリアキングの『海を干上がらせる』っていう脅し――あれは絶対にハッタリじゃない。

あのワームがいるなら、いつでも実行できるだろうし、そうなれば地上の人類は終わる。そこまでは、たぶん事実なんだ。


……でもね、それはあくまで脅しでしかない。

彼が本当に欲しいのは、死んで乾いた星じゃない。水も緑もある、いまのままの地球だと思うんだ。


たしかに地底人なら、干上がった世界でも生きていけるでしょ。


でもそれじゃ、今の地下帝国と同じものが地上に広がるだけだよね?そんなもののために、

あんな大掛かりなことをするとは思えない。

つまり、彼には地球を荒廃させる考えなんて、元々ないんだ。


彼の目的は、あくまで現状の地球の支配。海を人質にした、壮大な脅迫。

……それが、このゲームの本当の盤面だと思う」


……《マグコア・セントラル》の塔頂。

地底の空気を吸い込み、重々しく吐き出す巨大な排気口。その外縁部は、あたかもキッチンシンクのごとく無機質で、何の装飾もなければ温もりもない、

いわば金属の一枚板の冷ややかさと光沢が支配している。しかし、その殺風景な場所には、屋上広場としての機能も備わっていた。


ふたつの人影が近いところにあった。熱風が、おせちのカーディガンと、テラリアプリンセス――「ヨルシカ」と名乗った――の瀟洒な上着の裾を、絶えず近い律動で揺らしている。


一方、すこし離れた手すりの上では、アシュリーが膝を掛け、まるで干された布団のように上半身をだらりと垂らし、逆さまの景色をぼんやりと眺めている。その目は遠くのマグマの川にも、地上のどこにも焦点を結ばず、何かを思い定めているようだった。


隣では、はちるが手すりに胸を預けて街の様子を心配そうに見下ろし、その傍らで、さなは床にちょこんと座り込み、保護された奇妙な生命体――マクロブランクの様子を気遣わしげにうかがっていた。脳髄から直接手足が生えたようなその生物は、触手をせわしなく動かしながら、周囲の構造物や熱風の成分を分析しているのか、何事かぶつぶつと呟いている。


眼下に広がる都市の混沌は、今となってはひとまずの落ち着きを取り戻しつつあった。


「……おせちさん、一言一句、あなたのおっしゃる通りです――」

やがて、ヨルシカがしずかに口を開いた。その声は、一命を賭したあの降参の経験を経て、かえって澄んでいる。

「――あなたの分析には、ただ感服するほかありません。しかし、どうやってそこまでの予測を?」


その問いに、おせちは視線を眼下の街へ落としたまま、淡々と答えた。

「君たちテラリアンは、今ある土地さえ持て余してる。私たちはここへ来るまでに、完全に打ち棄てられたた地下道をずっと辿ってきたから、そのことは感覚で知ってたんだ――」


彼女はそこでいちど言葉を切り、まだ消火が追いつかずに燃え盛る街の一角へと、その視線を据えた。


「――なのに、テラリアキングは地上の支配を口にする。なら、欲しいものは豊かな自然に決まってるんだよね。


あとあそこ、君を人質に取った場所。謁見の間か何かだったのかな?あそこの緑にあふれた光景を見て確信したよ。……大体はそんな感じの、かんたんな推論だよ。


……あっそうそうそう!最後にこれも。これは偏見だけど、この国はご飯が美味しくなさそう、っていうのもあった」


飄々とした語り口でありながらその芯を食った答えに、王女はふたたびび息を呑んだ。

自分たちが自明としてきた世界の有り様を、この地上から来た少女が、わずかな情報から、より深く、そして正確に看破していることに。


巨大なファンからあふれ出して、山なりになった斜面を颪のように下ってくる熱風に髪をなびかせながら、おせちは呆れたように言った。

「……でも、その空洞が手に入った時点で、満足しておくべきだったんじゃない?緑豊かで海よりも広い土地なんでしょ?それ以上何を望むのさ?」


プリンセスの口が、動こうとする。返答までに1拍の間があったのは、言葉にできない感情を整理するためだったのかもしれない。

「私自身、何度も申し上げてまいりました。しかし父の――あの方の覇権主義的な傾向と、国軍を私兵のごとく扱う姿勢は、今に始まったことではないのです。

ひとり娘である私のことは殊のほか大切にしてくださるものの、その一点に関しては、いかにお諫めしても、けっして耳を貸そうとはなさいませんでした。


そうした中で起こったのが、先日のドバイでの事件、そして、いま直面しているこの未曾有の世界的な混乱です。ひとりの人間として、私はもうこれ以上、黙して父に従うことはできないと思いました。


この身がいかに扱われようとも、同じ地球に生きる者として、地上世界の滅亡だけは、何としても阻まねばならない――そう、固く心に誓ったのです。


だからこそ、父王を1度は撃退したというあなた方に未来を託す覚悟を、私はあの瞬間に固めました。

ここにあらためて宣言いたします――私欲のために100億の民をも犠牲にしかねぬ父王とは、金輪際、袂を分かちます」


やがて、その声は静かな諦念を湛えながら、ひとつひとつ言葉を選ぶように訥々と紡がれるようになった。それは、遠く響く哀歌の余韻にも似て、場にいる者すべての胸の奥をそっと満たしていく。


「……海のすべてを受け入れてなお余りある、あの広大な緑の光景こそ、私たち地底人が、いつの日かと夢見続けてきた理想郷――まさしくその結晶だったのです。

本当なら、あの光景にたどり着いたその時こそ、私たちは歩みを止め、心から満ち足りるべきだったのでしょう。けれど……」


その瞳は、今や戦火に遠い、かの地の静かな緑を幻視しているかのようだった。されど、と王女は思う。あの理想郷でさえ、父の地上に対する渇望を癒すには至らなかったのだ、と。


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

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