issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 05 16
……喧騒を増す市街地の気配を背に、ホットショットとミーティスは見通しのいい工業区画をひたすら疾走していた。
視界の先まで、錆の浮いた鉄板がパッチワークのように無機質な大地を形成し、大小様々なパイプラインが血管のように地を這っている。それは、どこまで行っても代わり映えのしない、うんざりするほど広大な鉄の平野だった。
だが、時折足元に響く低い振動と、鼻を突くオイルの匂いが、こんな郊外にまで、この巨大な機械都市の心臓はその脈動を抜かりなく届かせているのだと伝えてくる。
「さな、マクロブランクってヤツの気配は?」
「ひとつ離れてて、ずぅ~っと横滑りに動いてるのがある。それかも!」
「地下か?」
「けっこう深い」
「だったらあとは、下水道をドライブするのが趣味のイカれた奴がこの国に存在しないことを祈るだけだな。正直、4億人もいんならそういう界隈2つ3つはあってもおかしくないと思うけど」
やがて2人の視線の先、鉄柵とコンクリート壁に囲まれた広大な敷地が姿を現す。正門の看板に掲げられた異国の文字は読めずとも、鼻を刺す腐臭と無骨な施設の様相が、そこがゴミ処理場であることを物語ってい た。
バイクのような加速で敷地に突入した2人は、奥でひときわ存在感を放つ灰色の鉄扉に行き当たる。ゲートの両脇には高圧バルブと配管が絡みつき、その表面には長年の腐食が醜い傷を刻んでいた。
「ここだよね!?入口」
ミーティスが手早く呪符を抜き放ち、ひらりと投げる。札は扉に吸い付くと、迸る光の術式を瞬時に展開し、爆炎と共に鉄扉を吹き飛ばした。
跡形もなくなった開口部から、熱気を孕んだ濃密な廃液の臭気が押し寄せ、鼻腔を焼く。
「さすがに当たりだな!」
ホットショットが声を大にした。
2人はためらうことなく、破砕された建物へと身を滑り込ませる。背後から響く警備兵の怒声は、秒ごとに遠ざかっていった。
奥へ進むほどに熱が肌を刺し、ただよう空気は黄ばんで霞む。濁流と化した廃棄物の川を、
ホットショットとミーティスは黙々と下っていく。
それは場に蔓延する臭気を余計に感じ取ることがないように、自然と凝らされた工夫だった。
流れは重く粘り、周囲の壁は湿った油膜に覆われ、天井からは絶えず汚水の雫が落ちている、そんな環境をどこまでも行かねばならぬというからには――。
「……間に合うか?」
ホットショットが自問し、さらに加速する。
その先――腐臭と焼けた樹脂の匂いが混じり合う、褪せた色の丘が見えた。雑多な生ごみ、液状化したマイクロチップ、膨張して破裂した電池、泡立つ汚泥が、ゆっくりと押し流されては山肌を崩していく。
そして、その頂にそれはいた。脳髄をむき出しにしたような塊から、細い触手が生えた異形。
――マクロブランク。
粘つく触手を頭上に振り回し、要救助者の輪郭を彼は力いっぱい誇示していた。
「おおっ、また熱苦しそうなヤツでちゅな!?しかしエクセレント、じつにエクセレントでちゅ!」
「……“Life on Mars?”デヴィッド・ボウイが予言したのは、この光景か?」
軽口を叩きつつ、ホットショットは廃棄物の山を跳び越え、その奇怪な生命体を片腕で抱え上げる。
そして次の瞬間、斜め上へ旋回しながら腕から解き放った極太のビームが、下水道の天井を抉って大穴を穿つ。
その出力は衰えることなく、地上を超え、はるか上空まで一直線に光の道を拓いていく。
上昇の最中、ホットショットは腕の中の生物をあらためて見下ろし――そして、盛大に顔を引きつらせた。
「……ゲッ、脳味噌に顔がついてる!わりい、そういえばウチペット禁止だったわ。段ボールは用意するからさ、『拾ってください』っていうの自分で書いてくれるか?」
「……なんだか今、しれっと大変失礼なことを言われた気がするでちゅが!?」
風圧に頬を打たれながら、マクロブランクは憤慨する。
ともあれ、ホットショットと、彼女を追って飛翔したミーティス、そして腕の中の奇妙な亡命者は、こうして無事に灼熱と腐敗の奈落から脱出したのだった。
鉄の地面に優しく下ろされると、奇妙な生き物は2人に対してぬるぬると頭を下げた。
「……ふぅ、無事サバイブしちまったでちゅ。あらためて、わちきの名はマクロブランク。助けてくれて、ありがとうでちゅ」
その表面は溶岩の熱で乾きかけ、薄膜の一部がぷつぷつと泡立っている。
「いや礼には及ばない。防犯の関係でゲンナマ以外は受け取らないことになってるからな――」
溶岩の流れる側溝を軽やかにまたぎ、炎の変身を爪先から解いたアシュリーは、ポケットに手を突っ込んだまま、
ビールの柄がプリントされたスカジャンの、肩口を飄然とそびやかして名乗った。
「――私はカルテット・マジコのホットショット――吉濱アシュリーだ」
「……ミーティスです。同じく、吉濱さな!」
隣のさなが穏やかに応じ、半歩前へ出てマクロブランクに向き直る。ここでの慇懃な一礼は、
しっとりとした髪先が重さを帯び、ほのかな香りを舞い降りさせるほど自然に深くなり、その、いちばん底で静かに持続された。
その所作に、マクロブランクは目を丸くする。
「なんと……おなじ一族とは到底思えぬほど、そちらのさなという方は品がいいでちゅな。それに比べてアシュリー、オマエは……」
という短評を賜ったアシュリーが眉をひそめる横で、マクロブランクは不思議そうに首をかしげ、ふいに話題を変えた。
「ところで、さな――」
「?」
「――お前たちの家は、本当にペット禁止なんでちゅか?」
その瞬間、溶岩の泡立つ音すら遠のくような、妙な間が広がった。
「え……? そんなことないけど……どうして?」
小首を傾げて答えるさな。
「…………」
マクロブランクは、ぴたりとアシュリーに視線を据え、目を細めた。
すると彼女は露骨に視線を逸らし、後頭部で手を組む。そして――わざとらしく調子を外した音程で、口笛を吹き始めた。
「……とにかく、あのタワーに向かうぞ。街もちょうどいい具合に焼けてきたしな!」
アシュリーは、ごまかすように軽く足を蹴り出し、視線を遠くの構造物へ向けた。
視界の先、地底都市の景観を突き破るようにそびえるのは、
金属で編まれた巨塔だ。
外壁のパネルには蒸気が帯のように絡みつき、随所から青白い光が脈打つ。塔頂は巨大な通気口の
ように開き、地底の空気を吸いでは吐くたび、周囲の大気がゆらりと揺れた。
「そういえば、この街はさっきから随分と騒々しいでちゅが……何かあったんでちゅか?」
マクロブランクが、触手の先で塔の方角をくるくると指し示す。まさにその時、遠景で新たな火の手が煌々と上がった。
「ああ……たぶん、私の家族がクーデターを煽ってる」
アシュリーが、こともなげに言い放つ。その言葉に、マクロブランクの“顔”が一気に輝いた。
「お前たち、極悪でちゅか!?……気に入った、わちきも連れていくでちゅよ!」
触手を勢いよく振り回し、溶岩のしぶきが小さく弾ける。
アシュリーは片眉を上げ、笑いをこらえながら肩をすくめる。塔の頂にまたひとすじ、青白い閃光が走り、行く先がますます騒がしくなることを予感させた。
どうやら、クーデターは成功しつつあるらしい。
高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。
https://x.com/piku2dgod
本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256




