issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 05 08
「……まあ、そうだね。マイナスな考えはとにかく――完全にダメになった時まで、封印ってことで」
そう言って、おせちは頼もしげな表情をつくりながら、片手をそっと突き出す。
土と汗にまみれた拳が、狭いかまくらの中心にそっと浮かんだ。
その意図を汲み、はちるも、さなも、言葉を交わすことなく拳を寄せた。
泥と煤で汚れたちいさな拳がひそやかに触れ合い、ヘッドランプの光の揺らめきとともに、そこには確かに、逆転への火種が灯る。
「……急に新パターンの決起集会だな」
アシュリーが、苦笑しながら言った。
「普段こういうのやらないから。1回やってみたかったんだよね」
おせちの口元に、ほんのわずかだけ柔らかな笑みが浮かぶ。
「なるほど、たしかにいいかもな。……ああ、そうだ。母ちゃんやダチを泣かすには、あたしたちはまだ全然早い。それに、敵が何もしないうちから勝手にピンチになって死ぬのは、さすがにダサすぎる。
そんなの化石になって見つかったところで墓碑銘も『期待外れのアホ』に決まってるもんな」
そしてアシュリーはふと目を細め、3方向から差し出された拳たちに視線を落とす。
引きかけた己の拳を、口づけのやわらかさで重ね直し、
そのまま、そっと奥までねじ込んでいく。頬を寄せ合う代わりのように。
かくして絶対的な闇は、少女たちの行為を無事に聖別する。
……言葉は不要だった。ただ拳に宿る温もりと、その奥で脈動する決意だけを媒介と
する、原始にして誠実な魂の契り。それは、家族の絆という目に見えぬ概念が、確かな熱を帯びて触れ合う、まさにその先端なのだった。
しかし、おせちだけは、
「ちょっとやめてよ! なんでそんな満足そうな顔するの!?」
本来なら手放しで感慨に浸り続けるべきその時間、まるで誓いが成立したことを今さら悔やむかのように、慌てて拳を引っ込める。
「なんだよ?」
アシュリーが、不完全燃焼の感覚をありありと言葉に乗せる。
「だって、アシュリーがそんな素直だと、いよいよ最終回みたいだし!」
「……人を“地震の時のテレ東”みたいに言うなよ!」
言葉を交わすたびに、張り詰めていた空気が、着実に解きほぐされていく――
そんな時だった。
〈……たち……るでちゅ!?〉
「……ん?今の誰?」
耳の奥をくすぐるような甲高い声に、4人は一斉に顔を上げた。
「さな……お前、まさかもう頭が……!」
同時に、アシュリーが愕然とした顔つきになり、憐れみの目をさなに向ける。
「えっ、わたし!?ちがうよ!?今のほんとに、わたしじゃないもん!」
さなが必死に首を横に振った。
「じゃあ誰の声ぇ!?」
はちるが目を見開き、落ち着きなく周囲を見回す。
「さっきの爆音……あれも考えてみたら人の声だったかも」
さながぽつりと漏らすと、
「なら、もう1回通信できないかな?」
はちるが期待を込めて訊いた。
思い立ったように、さなははちるの通信装置へそっと体を伸ばし、マイク部に口を近づける。
「……あのっ」
そして、祈るように、か細い声を吹き込んだ。
すると、次の瞬間――
〈ブィンッ!……ザザッ……聞こえているかでちゅか!? そこの地下キャンパーの諸君ッ!〉
通信装置が悲鳴のような音を発し、本体が激しく震えはじめる。
電子ノイズの向こうから、神経を逆撫でする金切り声が、鼓膜を直接突き破ってきた。
「うわっ……!」
「うるさっ!!」
4人は、たまらず耳を塞ぐ。
通信の主、それは、脳髄から4本の触手を生やした異形の生命体、マクロブランクに他ならなかった。
「……あなたはだぁれ?」
さなが問いかける声は囁くように静かだったが、その響きには明らかな警戒が滲んでいた。
隣では、はちるが無言で通信装置の音量を絞り、ノートPCのタッチパネルへ器用に指を走らせている。
〈まだ生きているでちゅね!? あたちは偉大なるマクロブランク!『リアリティ・インデックス:ΨΔΩ-2005』、最後にして唯一の"いちき存在"!そしてこの星の新たなるサバイバル王者でもあるでちゅ!〉
「りありてぃ・いんでっくす……?」
さなが、目を丸くして聞き返す。
〈……えっ!?〉
「えっ?」
感嘆符だけの応酬が、1拍の静寂を挟んで反響する。
〈……別次元に強制転送されたことまではわかっていまちたが、むぁさか……!マルチバーサル・レジストリの基幹プロトコ ルすら共有されていない次元に迷い込んだワケでちゅか?〉
「うぅん、何言ってるか全然わかんない……」
さなは弱々しい声で、申し訳なさそうに答える。
〈…… 宇宙間の相互参照規格でちゅよ!?お前たち、もしかしてホントのホントに、多
元的認識の初期段階にも達していない“野生種”なんでちゅか!?〉
「……おまえ、なんでいきなり大声出したんだよ!――」
そこへ、怒声混じりのいちゃもんが飛ぶ。四つん這いのまま土砂を掻き分け、通信装置のそばへ這い寄ってきたアシュリーが、その勢いで声を荒らげたのだ。
「……おかげでこっちは9割方化石だぞ!耳も壊れかけたし!!」
〈大変なのはこっちも同じでちゅ! だからこそ、これは緊急避難――いわゆる違法性阻却事由でちゅ!
お前たちの文明が、技術こそ拙くとも精神的には成熟しており、せめて民度では宇宙の先進種族だと証明したいなら、非常時における多少の感情的発露など、文明的寛恕の範囲として受け入れるべきでちゅ!〉
「非常時のボリュームじゃないだろ!」
アシュリーの怒声も、つられて跳ね上がる。もし直接会っていたなら、躊躇なく拳を叩き込んでいただろう。
「……とりあえず落ち着こう!? 中指立てたって、あっちに通じないからね――」
おせちが低く、抑えた声で割って入る。
「――こっちも混乱してる。まずは順番に話そう」
そう言って、アシュリーの口元にそっと手を添えて制した。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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