issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 05 07
みたび、地下の完全な闇の中で、さなの呪符が起動する。
半球状の結界が土砂と岩の重なりを内側から押し広げ、新たな避難壕を形成する。やがてその内部に、ほのかな青白い光が、力なく灯り始めた。
「アシュリー、あそこ……抜けられない?」
一連の混乱が収まり、かまくらの内部に秩序が取り戻された後、おせちが問いかけた。
「熱だけなら100億度でもなんでもない。でもあれ……マグマってようするに溶けた石だろ?そんな高圧の中じゃ、変身を維持するための火の体積を長くは保てない」
アシュリーは腕を組み、結界の天井の先をじっと見据えながら答える。
「マグマの粘度は、温度とシリカの含有量で決まるから……。
粘性が高いタイプだと、水の1万倍以上の抵抗になるよ」
はちるが、理系らしい落ち着いた調子で補足した。
「じゃあ逆にさ、マグマを蒸発させながら進むのは?」
おせちが、なおも食い下がる。
「ここ、火山帯で……深さももうマントルのキワキワだよ?地下のマグマ溜まりだって、規模がとんでもなく大きいんじゃないかな――」
はちるは、彼女なりの慎重な考察を続ける。
「――上に抜けるにしても、ちょっとやそっとの距離じゃない。さっきの落盤が何kmって規模だったのときっと同じ話。
……むしろ、今までこういう事態に遭わなかったのが幸運だったんだよ。テラリアンの道が、やけにクネクネしてた理由もきっとこれだよね」
「う〜ん……」
しばらく黙考していたおせちは、やがて小さく唸ると、ぽつりと言葉を漏らした。
「……もしかしてこれ――ヤバくない?」
当然の帰結。
論理の簡単な式を経て導き出されたその一言が、思いのほかの質量を伴って、
全員の胸にめり込んだ。
どこかで無意識に信じていたのだ。
「自分たちなら、どんな窮地もかならず乗り越えられる」
「危機など、打ち破るためにある」
そんな、若さゆえの根拠なき確信を。
「超人」という属性の自認と、4姉妹に共通する徹底した楽観主義。
その無敵感が、ついにはじめて、目の前の現実によって揺らいだ瞬間だった。
「はちる、お前……さっきらしくないくらい疲れ方してたよな?たったあれだけ掘ったくらいで……」
アシュリーの鋭い問いかけに、はちるはそのときの感覚を思い返すように、ふっと目を細めた。
「う~ん、それはね、たぶん空気の問題かな……」
その自己分析を、おせちが静かに肯定する。
「そうだね、その……酸素の限界もある。だとすればなおさらのんびりしてる暇はないね」
「じゃあどうする?」
アシュリーが短く問えば、
「それでも結局ははちるに賭けて、いけるとこまで掘るしかない――」
おせちは、なお一層強い決意でそう言い切ると、さらに続けた。
「酸素は、ソーダ味のソイルとレモン味のソイルを使って電気分解を引き起こせば、しばらくは確保できるかもしれない。――ちょっと爆発するかもだし、どれだけ作れるかも未知数だけど」
「……もしさ、どこまで掘っても駄目だったとしたら……?」
その切実な問いは、さなの口から、ふと、うわごとのように零れた。細く哀れな声からは、
生気という水分がすこし失われかけている。
「大丈夫だよ、さな。いざとなったら――息なんてしなくても、何kmでも掘ってみせるから。全部ウチに任せてって!」
はちるは隣に座るさなの腰を片腕で抱き寄せ、力強い笑みを言葉に添えた。だが、その無理やりな明るさにこそ、姉妹たちは彼女の疲弊をかえって感じ取るのだった。
「うぅん。できるかな?お母さんに会いたいな……」
そしてさなは、心の奥底から無意識の願いをすくい上げるように、そう呟いた。
「さな、それは違うぞ」
「え?」
アシュリーの、意外なほど冷静な拒絶に、さなは思わず顔を上げた。
「私たちが今ここで思うべきはな、テラリアキングのムカつくツラだけだ。
あれに1発カマすところを想像してみろよ。そっちの方がよっぽど気持ちいい。
んで忘れろ、今思い浮かべてるその母ちゃんとやらは死神だ。
考えれば考えるほど足がすくむ」
…………………。
「……いやっ、それはさすがにウチも会いたいよ!」
すると、はちるが沈黙ののちに口を挟み、
「そうだよ。母さんを悲しませちゃダメでしょ!」
おせちまでが加勢する。
「そーだそーだ!」
「そーだ!」
「おい、なんだこの流れ!私が悪者か?」
たちまち3人からの非難を受けるようになったアシュリーは眉を上げ、やや芝居がかって抗議する。
「ほら、やっぱりみんなそうだよね?だったらさ、ここからぜったい抜け出して、
テラリアキングも倒さないと……がんばろ!アシュリーも私たちを見習って頑張ってください!」
さなは、たった数段の会話を経るうちにいつもの調子を取り戻し、あっけらかんと結論を押し付けた。
「はぁっ……いいな、そのまとめ方。『ストローマン』のお手本だ。いつの間にか私が1番落ち込んでることにされてた」
苦笑しながら肩をすくめるアシュリーに、「え、違うの?」とさなが首をかしげ、
「図星だったら素直に言いなよ」とおせちがからかい、
はちるは「まぁまぁ」となだめるふりをして笑いを堪えていた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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