issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 05 05
「……さな、お前の能力のいちばんいい使い方を思いついたから教えてやる。……口にその札貼っとけ!」
とアシュリーがせき立れば、その声に応じるように、さなのポケットから札が1枚ふわりと浮かぶ。
「うん、今はその方がいいかも……」
さなは涙のまだ滲む目で頷くと、そのままおとなしく口元を隠した。
「ヘルメットの光、消して一旦落ち着こかない? 深呼吸、深呼吸!」
はちるの、凪いだ水面のような呼びかけが、張り詰めた恐怖に波紋を広げた。
瞬間、彼女たちは、この姉妹特有の――いわば、霊魂の域に源流があるのではないかとさえ思われる異様な連帯感のもと、誰からともなく、自然と円陣を組んでいく。
互いの”いのち”を直接感じるほどの距離。それぞれの息遣いだけを頼りに、絶対的な暗闇の中で呼吸を整えていく。
その中心で、アシュリーが呪文のように、けれど熱を込めて呟いた。
「……カルテット、マジコっ、フォーッ、エバーッ……!」
小刻みな発音で言い切ると同時に、彼女はぐっと腕に力を込めて全員の肩を押し下げ、その反動を利用して、弾けるように円陣を解放した。
「めっちゃ気に入ってる……」
するとおせちは、やや距離を取った口調で、そんなひとことを返した。
……その時だった。
はちるの背負う通信装置が、警告もなく爆音を吐いた。
「――ギギ……バリバリッ……ッザザァッ――」
鼓膜を直接削るような硬質なノイズが、洞内の湿った空気を引き裂く。張り詰めていた糸が、ついに断ち切られた。
ノイズの向こうから、地殻そのものが揺らぐような咆哮が解き放たれる。
〈おーい誰かぁあああああああ!!!!〉
それは、小さなスピーカーから発せられたとは到底信じがたい、狂気に満ちた絶叫だった。音声という形をとって顕現した純粋な力が、岩壁を伝って4人の全身を駆け巡る。
――その声の主は、数kmの岩盤を隔てた地の底で、即席の装置をひとり組み上げ、
なおも生を叫んでいたマクロブランクにほかならなかった。
そして、どんな微弱な信号も拾うべく極限まで高められていた装置の感度が、この最悪のタイミングで、彼のSOSを一切の減衰なく拾ってしまったのだ。
ぐずり、と天井が重苦しく呻いたかと思えば、次の瞬間、頭上のすべてが重力を取り戻して牙を剥いた。地鳴りが体の芯まで揺らし、落盤が始まる。
「わあああああああああ!!!!!!」
降り注ぐ瓦礫と石礫の抱擁が、人の意識を闇へと塗り潰していっ
た……。
*
がらん――。
石の雫がしたたるような、乾いた反響だけが黒闇の底に響く。
その中に、かろうじて守られた空間がひとつ。さなが咄嗟に展開した、かまくらほどの球状結界だ。内壁では護符の墨書が淡く脈動し、今もなお、降り積もる瓦礫の圧に抗い続けている。
崩落の直撃はまぬがれた。だが、周囲の通路は完全に塞がれ、光も風も、そして希望も届かない。死んだ空気が重く沈み、未知の気圧が皮膚にじっとりとまとわりついていた。
その沈黙を、ひとつの炎が破る。
アシュリーが無言で人差し指を掲げると、その爪先に、蝋燭ほどの火が静かに宿ったのだ。
たちまち空間が優しく照らされ、土埃に汚れた4人の顔が、闇の中に浮かび上がった。
「いいね、酸素を消費しない火は、こういう時何より貴重だよ――」
おせちはそうつぶやくと、
「――まあ、こっちの方が省エネだけどね」
と付け加え、冷静にヘルメットのライトを点灯させた。
「ああ、そういうのあったな……」
アシュリーが深くため息をつくと、その場に次の言葉が生まれるまで、数秒の時を要した。
空気の澱みが濃度を増し、地下の圧が皮膚を通り越して内側からじわじわと体を蝕んでいく。
「しかし、地下のインスタレーションはスケールが違うな」
やがて岩の粉を肩から掻き落としつつ、アシュリーがぽつりとぼやいた。
「……どうしよ……?」
はちるが体育座りのまま膝を抱え、自分のちっぽけさを確かめるように身を縮こませて、か細い声を漏らす。
「落ち込んでるところ悪いけど、こういう時のための“はちる”でしょ。1家に1台、常備防災グッズ」
「……つまりぃ?」
さなが、おせちの顔を見上げる。
「基本的には、はちるが掘る。それ以外に道はないよ」
おせちは、きっぱりと言い切った。
「――でも、どっちに掘るかは賭け。運が悪ければ、次の空洞に出る前に酸素が尽きる」
「いや」と、アシュリーが顎に手をあてて割って入る。「岩盤が崩れたってことは、その分だけ上に新しい 空間ができてる可能性がある。空気もそっちに抜けてるはずだ。上か、通路が元々あった横。そこまで出られれば――」
アシュリーが顎に手をあて、推測を口にしかけると、
「じゃあ、まずは横だね!上はどこまで崩れたかが未知数、期待値の高い方から潰していこう!」
その言葉に、最初は不安げに話を聞いていたはちるが、顔に明るさを取り戻す。
「じゃっ、早速やろっか!」
みずからの使命を悟った“獣人重機”はちるは、身を低くかがめ、四つん這いの姿勢へと切り替えた。
高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。
https://x.com/piku2dgod
本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256




