issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 05 04
しばらく、誰も口を開きはしなかった。全員がただ、肌にこびりついた忌まわしい感覚――それがいまだ現在進行形であるかのような錯覚に、黙して耐え続けていたからだ。
「……行ったね――」
最初に声を出したのは、おせちだった。
だがその声も低く、慎重だった。
「――とにかく。何が起きても、大声は絶対にナシで行こう。
こんな地底だよ?天盤が崩れでもしたら、さすがに私たちでも無事じゃ済まない」
と、彼女は仲間に釘を刺した。
「……CIAがさ、旧道のデータならあるって言うから入ってみたけど……
そりゃ誰も使わないわけだ」
アシュリーが虚脱した調子でぼやく。
「……うん……」
はちるはうつむいたまま、気の抜けた返事を漏らした。顔色はまだ青白く、
さきほどの出来事の残響――いや、むしろその渦中に、まだ囚われているかのようだった。
「ま、私はここで悪くなかったけどさ。”記念品”が拾えたし」
気を取り直すかのようにおせちは、ポケットから、ゲームソフト「ET」の砂まみれになった
カートリッジをすっと取り出し、かすかなにやつきと共に撫でてみせた。
「あっ、それ行く時拾ってたやつ!」
さながぱっと反応する。
「まさかアラモゴードの埋め立て地の近くがそうだなんてさ。灯台下暗しってやつだよね。
廃棄業者の人、あんな穴ほじくるくらいなら、最初からそっちに捨ててればよかったのに」
……1982年末、世界的な大ヒット作となった映画『E.T.』の熱狂の中、アメリカの大手ゲームメーカー、アタリは大きな賭けに出る。わずか5週間という、異例の突貫工事で公式タイアップゲームの開発に踏み切ったのだ。
しかし、その拙速は裏目に出た。完成品はおよそゲームと呼べないほどの内容に乏しい代物で、発売と同時に市場からは「史上最悪のクソゲー」という評価を浴びせられる。
またたく間に巨大な不良在庫と化したカートリッジは全米各地の倉庫に溢れ、会社の経営を圧迫していった。進退窮まったアタリが下した最後の決断は、やがてビデオゲーム史に残る伝説となる。
同社は、350万本とも言われる在庫の一部、実に72万8000本(ただしこれには、『パックマン』など他の売れ残りも含まれる)をニューメキシコ州アラモゴードの砂漠へ輸送。そして、深く掘った穴にそれらを投棄し、コンクリートを流し込んで永久に封印したのである。
この一連の出来事は、後に「アタリショック」と呼ばれるビデオゲーム業界の大不況を象徴する事件として語り継がれ、真偽不明の都市伝説として多くの人々の記憶に刻まれていった。
「お前、レゲー好きだもんな。帰ったら――どれだけのクソゲーか、みんなで味わってみるか?」
アシュリーは、嘲りとも悪戯ともつかぬ感情を滲ませ、口角をゆるく歪めた。
「うん、うちのアタリ2600が、カートリッジスロットを乾かして待ってる。
――ま、とにかく、今は先を急ごう」
目の前には、常に在ったにもかかわらず、これまで1歩たりとも踏み込むことが許されなかった分岐路の先。当然のこととして彼女たちが選んだ左の道は――空気が死んでいた。
*
そこは一転して、風の音すら届かない、巨大な胃袋の内側のような空洞だった。闇が音を喰らい、沈黙が肌に張り付く。中央まで進んだところで、誰からともなく縫い付けられたように足が止まった。アシュリーが、絞り出すような声で皆の心を代弁する。
「……なんだ、ここ?」
何もないからこそ、そこに異様さを感じるのだ。
空白がただ空白として存在することの怪しさ、それが、先に遭ったヤスデなどよりも、より大きな異物との邂逅の予兆に思えてならない。
やがて、予感は最悪の形で輪郭を結ぶ。空間の肌理を探っていたライトの光が、壁に埋もれた白く、ぬらりとした異物の上を滑った。
「――ッ」
息を呑む音だけが響き、4人のヘッドランプの光が、蜘蛛の子のように1点へと収束する。
闇から浮かび上がったのは、ただの物体ではなかった。視覚が理解するより早く、脳髄が直接「拒絶」の信号を発する、呪われた構造物だった。
その顔貌には、乳歯の直下に永久歯が控えているような、異様に重複した歯列がびっしりと並び、人ならば鼻があるはずの場所には、眼窩とおぼしき穴が、まるで病巣のように、無秩序に穿たれていた。
効率的すぎる恐怖の形。集合体に対する人間の原始的な嫌悪感を、これ以上なく的確に突くためだけに生まれたデザイン。
般若の如き口元からは、ぬらぬらとした牙が覗き、その巨体は岩壁に半ば喰われるようにして埋没している。表面は石化と炭化が歪に混じり合い、濡れたような光沢と乾いた質感が同居していた。
これは、生物の死骸などという生易しいものではない。時間の経過にも地層の積み重ねにも隠しきれなかった、太古の地底に君臨していた「何か」の遺骸。そう結論づけるしかなかった。
「……は……ああ、あああああああああああ!!」
今度、たまらず声を上げたのはさなだった。
その可憐な悲鳴を止めようと、あわてて両手を口元に押し当てたがすでに遅かった。
瞬間。
洞の天井の奥深くで、乾いた骨が砕け散るような、鋭利な軋みが上がる。
ミシリ、と1度。
それは、あまりにも危うい一線を踏み越えようとする音。落下か、あるいは「目覚め」の前兆か。
だが、次の音は続かなかった。
世界は再び、最初の沈黙よりもさらに深く、悪意に満ちた静寂へと引き戻されていった。
彼女たちは、息をすることさえ忘れて、闇の中に佇むしかなかった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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