issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 04 09
予兆は、グラスの水面がわずかに波打つほどの振動だった。遠方で大規模な工事が続いているかのような、意識の片隅を、ほんのかすめる程度の地鳴り――だが、それは一瞬で無視できない揺れへと変わり、
やがて立っていることすら困難な激震へと変貌した。
「な、何だッ!?」
「地震か!?この深度で!?」
悲鳴と怒号が飛び交う。各国の代表団は、あるいは地面に伏せ、あるいは互いに支え合い、この天変地異に耐えようとした。だが揺れは収まらず、次いで地獄の釜が裂けるような轟音が空洞全体を呑み込む。蛍光色のラインが走る黒い床に、草地もろとも鋭い音を伴って大きな亀裂が走った。
直後、広場に隣接する草原の一角が、巨大な円を描くように崩落する。そこから奔出したのは
ひとえに圧縮された土砂と蒸気――その勢いは空洞の天蓋を突き破らんばかりだった。
ドッゴオオオオオオォォォン!!!
岩盤の破片が砲弾さながらに四方へ飛び散り、ドイツ代表団の探査機器一式もその中の1片として宙を舞う。誰もが死を覚悟し、衝撃に身を固めた。
そして、噴煙と薄緑の霧が渦を巻く中――ゆっくりと、しかし抗いがたい力で「それ」が姿を現した。
イーター・オブ・ワールド。
全長は2kmと、先代の個体よりひとまわりも大きなその体は、もはや生物というより、地殻そのものが意思を持って動き出したかのような、無二の存在感を放っていた。
金属質の鱗はその1枚1枚が大型装甲車を延べても賄えぬほどの面積になり、継ぎ目からは地核の熱を思わせる禍々しい赤い光が明滅している。天を衝く塔のように伸び上がった胴体は、空洞をみたす光を遮り、広大な領域に絶望的な影を落とした。
ワームは胴の半ばまでを直立させた姿勢のまま動きを止め、真下を睨み据えつつ、巨大な顎をわずかに開閉させる。
そのたびに砕けた巨岩が地上に降り注ぎ、さらなる混乱と破壊をもたらした。それは、テラリアキングが口にした「掘削」がいかに容易であるかを示す、無言のデモンストレーションにほかならなかった。
全員の視線が、その現実味のない”力”の具現に釘付けになる。
悲鳴も、言葉も、思考すらも奪い去られ、彼らが築いてきた科学、外交、軍事という概念さえ、
この絶対的存在の前では等しく無力に思われた。それは、ただの兵器ではない。文明そのものを容易に飲み込み、歴史をリセットする、惑星の権能として今ここに君臨していた。
やがて、土砂の噴出さえ幻のように鎮まり返った。砂煙は薄れ、残されたのは代表団の押し殺した息と、ワームの体内から響く、巨大な炉心の低い駆動音だけとなる。
重く、完全な沈黙が訪れる。それこそが、テラリアキングからの最終的な回答だった。
「この空洞を、こうして地上の皆様にお見せしたことこそ――我らテラリアが、地上諸国との究極的な意味での和合を志している何よりの証であります」
巨大なワームを背に、テラリアキングの声は驚くほど理知的だった。
まるで大学教授が講義をするかのように、1語ごとに吟味を重ね、聞き手の胸へ沈めていく努力を怠らなかった。
「ただし……我らは、民意に基づく合議制を採るつもりは毛頭ありません。目指すのは1国独裁の体制であります。よってこの場をもって、私は正式に宣言する――地上世界の統治権をテラリアに移譲することを、諸国に求める」
一瞬、場の空気が明然と歪んだ。要求は突飛でありながら、その口調は限りなく冷徹だ。
「無論、当面は平和裏にすべてを進める。現段階では岩盤の粉砕は考えていない。
誠意と合理性に基づく対話こそ、最も望ましい解決策であると信じているいるからだ」
だが、そこで彼の声音は冷たく沈みこむ。理知的な響きは消え、ひたすらに断定性を増した。
「……だがな。万が一、お前らがその誠意の意味を履き違えたならば……」
彼の言葉に呼応するように、ワームが身じろぎし、体表の赤い光が脈動を始める。低い声が空気を震わ
せ、代表団の足元にかすかな揺れが走った。
「その半端なオツムで考えることなんて、およそ見当はついている。この地下に軍隊を送り込うか?
資源を奪うか?テラリアの民を人質に取るか?――そんな下らねぇ方法で再交渉を迫ろうとすれば――」
次の瞬間、彼の口調からは一片の丁寧さも消えた。剥き出しの、荒々しい支配者の声が広間を圧倒する。
「――その時はッ!一切のためらいなく、こいつの牙を岩盤にブチ込んでやる!」
叫びと同時に、ワームが顎を天へ向け、岩盤を削り裂くような甲高い音を響かせる。
代表団の足元が信じがたく揺れ、恐怖が彼らの表情を歪ませた。
「貴様らの母なる海は、1滴残らずこの大地の裂け目に吸い尽くされる。そして地上は――永遠の渇きに沈むことになる!」
にやりと口元を歪め、野蛮に言い放つその顔には、もはや理性は欠片も残っていなかった。
瞬間、誰もが悟った。これは外交ですらない。絶対的な支配の宣言――世界への一方的な宣戦布告であり、降伏勧告だった。代表団の背後では、無言のテラリア兵が大型昇降機の扉を再び開け放ち、帰路を示す。
「安心しろ、お前らは全員、生かして返してやる。……もっとも、この通路はお前らが去った直後に爆破し、2度と使えなくするがな。
地上に戻り、それぞれの飼い主にありのままを伝えろ。世界連邦だか何だか知らんが、好きなだけ会議を開き、存分に議論するがいい。それが、お前たち人類に許された、最後の『モラトリアム』だ――」
そして、彼は最後の一撃を叩きつける。
「――だが、覚えておけ。もう1度だけしか言わねぇからな。もしお前らが俺らの世界へ不愉快な干渉を試みるなら、その瞬間に――俺らはこの『地球の栓』を引っこ抜く。これが、俺からの最初にして最後の通牒だ!」
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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