issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 04 08
促されるがままに沈黙を破ったのは、技術立国で知られるドイツの代表団だった。
主席技官が無言で深くうなずくと、彼のチームは即座に立ち上がり、携行していた複数のジュラルミンケース――大小合わせて10数個――を手際よく草原へと並べ、展開を始めた。
彼らの動きには一分の隙もなかった。
アイコンタクトと最小限のハンドサインだけで、全員がそれぞれの役割を完璧に遂行していく。
ケースが次々と開かれ、緩衝材に包まれた精密機器が金属光を帯びて姿を現す。
各パーツは迷いなく組み上げられ、縦方向へと滑らかに構造を伸ばしていった。
「指向性地殻変動ソナー、設置完了。アンカー固定、良し」
「高出力ジオ・レーダー、起動シーケンス開始。充填率30%」
「重力勾配計、水平出し完了。周辺フィールドとの同期、異常なし」
短く区切られた報告が、一定の間隔で飛び交う。あっという間に三脚に据えられたアンテナ型の装置が中央に出来上がり、その周囲には冷却ファンが唸りを上げるバッテリーユニットや、何重にもシールドされたケーブルで結ばれたラップトップPCが並んだ。
マットに直置きされたキーボードを叩く乾いた音だけが、緊迫した空気の中に鋭く響いた。
主席技官はメインコンソールの前に立ち、ただならぬ眼光で天頂を仰いだ。
そこに広がるのは、朧げではあるが、青空よりははるかに硬質な固体性の天蓋。
視線を戻すと、彼は簡潔に命じた。
「第1次スキャン、開始。音波プロファイリングを優先。海底基盤岩との共振データを洗い出せ」
「了解。プロファイラー、照射」
「ブゥゥン……」という地を這うような重低音が響き渡り、足元の地面がわずかに震える。不可視の音波が天蓋へと放たれ、その複雑な地層構造を探っていく。ラップトップの画面には、反射波のグラフが滝のごとく流れ込み、オペレーターたちは指を疾風のように走らせ、ノイズを除去し、データを濾過していった。
「レーザー測距、クロスチェックに入る。ターゲット、天蓋中央部。最小出力で照射」
薄緑の霧を突き抜けた1条のレーザー光が、吸い込まれるように空洞の天井へ届き、そこに淡い波紋の反射を刻んだ。その信号は即座に解析装置へ返送され、ディスプレイへ膨大な数値の羅列となって流れ込む。
無機質な数字と波形だけだった画面が、徐々に輪郭を帯び、やがて画像として実を結び始める。
海底からこの空洞に至るまでの地殻が、幾重にも重なる層ごとに色分けされ、透視図のごとく立体化されていく。
そして――その異様な構造が誰の目にも明らかになった瞬間、現場の視線は一斉に画面へ吸い寄せられた。
「……信じられない」
若い技術者が、思わず息を漏らす。
シミュレーション結果では、岩盤の最も脆弱な箇所が警告色の赤で示され、まるで亀裂の走ったガラスのように映し出されていた。
主席技官は、複数のモニターに映る数列と波形を何度も見比べ、眉間に深い皺を刻んだ。
まるでみずからの視覚を疑うかのように瞬きを繰り返す。だが、別々の探査手法で得られた結果は、無慈悲にも同じ結果を指し示していた。
彼はゆっくりと顔を上げ、代表団の面々へ向き直る。その表情には、技術者としての冷静さを超えた、一種の戦慄が宿っていた。
「……間違いありません――」
声を上げた地質学者の口調は硬くこわばっていた。
「――彼らは嘘をついていない。岩盤の厚さは平均で13.17km。箇所によっては……10.8kmまで薄くなっています」
その言葉は、この会談の場が、各国の利害を調整するための非暴力の円卓ではないという事実の、明示化に他ならなかった。
報告と同時に、数名の大使が無意識にテラリアキングへ視線を送った。それは詰問というより、真意を探るための鋭い眼差しだった。
その注視を一身に受けながらも、テラリアキングは薄氷の笑みを崩さない。まるで、来訪者たちの狼狽を愉しんでいるかのようにだ。ゆっくりと腕を組み、彼は静かに、しかし絶対的な支配者の声で告げる。
「繰り返しになるが、この空洞は我らテラリアでさえ、つい最近発見したばかりの処女地。居住の予定もなければ、利用の計画もない。つまり――どのように使おうとも、我が国民の誰1人として不利益を被ることのない、完全なる白紙の土地であります」
そこでいったん言葉を切り、列席者たちを見渡す。
「そして貴殿らは、その事実をご自身の機材で確認された初の地上人である。結構。その証拠も、会談の模様を収めた録画データも、すべて持ち帰られるがよい。我々は何も隠しはしない」
その声音は寛大ですらあったが、その裏に潜む悪意を、場の全員が感じ取っていた。テラリアキングはなおも続け、その声はいずれ宣告のように響いた。
「ただし――その知見を、地上でどう扱うかは、くれぐれも慎重にお決めなさい。
その“真実”が貴殿らの世界にもたらす混乱は……まあ、誰にとっても予想できる範囲内の事ではあろうが。我々はただ、静観させてもらうとしよう」
テラリアキングが言うべきことを真に言い終えた、まさにその瞬間だった。
高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。
https://x.com/piku2dgod
本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256




