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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
issue#02 UNDERTALE

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issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 04 06

それから3日後のことだった。


ハヴォックが気ままにハンドルを流すのは、古びたゴミ収集車だ。錆が全身を覆い、塗装もまだらに剥げ落ちている。取り柄といえば、その並外れた巨体だけ。満載の廃棄物を積み込んだ車は、重い足取りで地下の草原帯を横断していた。


やがて草の波間を押し分けるようにして進んだ車体は、掩体壕じみた覆いのある大型昇降機へとたどり着く。大がかりな音と共にエレベーターが起動し、車両ごと下層の地底都市へと吸い込まれていった。


都市の物流帯では、無数のトラックが列を成し、巨大な投棄用の縦穴へと向かっている。ハヴォックの車両もその流れに乗り、やがて地面が忽然と尽きる断崖の縁へと達した。だが、その間も車が運ぶ廃棄物の山――濡れた死骸の隙間に、あのピンク色の異物は息を潜めていた。艶を湛えたぬめりをまとい、それはひとつだけ確固たる脈動を保ちながら、静かにうごめき続けている。


「へッ、もう2度と魚とは関わりたくねぇや……」


台座ごとコンテナがせり上がり、後部が開かれる。腐肉と生野菜の泥濘、紙片と油脂の混交体が、どろり、と音を立てて深淵へと吸い込まれていった。他の車両と同様、不要なものをすべて、底の見えぬ暗黒へと還していく。


巨大な縦穴の底は、もはや個別の廃棄物を判別できぬほどに溶け合い、黒褐色の海と化していた。液化した有機物がねっとりと重なり、油膜の浮かぶ水溜まりからは、ときおり泡が弾け、生温かそうな蒸気が立ちのぼる。壁面には廃棄物の層が地層さながらに堆積し、重金属の腐蝕による虹色の斑が妖しく滲み出ていた。


ハヴォックの車が投棄したばかりの新鮮なゴミの山は、その色彩や水分量において明らかに異質だった。それはひとつの塊として、まだ黒褐色の泥には屈しないという、最後の自己主張を続けているかのようだった。


そのゴミの山の一角が、ゆるやかに隆起した。粘性を帯びたピンクの触手が、外気に向かってするすると伸び上がる。やがてその中から、人間の頭ほどもある、濡れててかった球状の器官――脳が、ずるりと姿を現した。


その球体には、解剖学の常識を無視して、強気な眼差しと牙の並んだ顔が直に張り付いている。


「……ゴッホゴッホ!ゲッホ!くっせぇでちゅなぁ!!目が覚めていきなり

この臭いっっっ……いったい何なんでちゅか!?…………オッップ、ウェッ!……レロレロレロレロ!!!」

いきなり人語を口にした“それ”は、間髪入れずに黄土色の液体をあたりへと盛大に吐き散らし、ゴミ捨て場の衛生環境にさらに追い打ちをかけた。


続けざまに、濡れた犬さながらに顔全体を左右に激しく振り、水滴とともに異臭まみれの汁を四方に飛散させる。


「むぅ……しかしなんでちゅかこの空間は……まったく見たことがないところでちゅ。

直感での解析結果――酸素濃度21%、重力加速度9.8……そしてこの忌々しい腐臭!

この穴の外壁になっている物質の組成は……人工の……フム、コンクリートってとこでちゅかね。

おそらく技術到達階層は7、きわめて未熟な文明の産物と見受けられまちゅ!――」


ひとしきり悪態をつきながら周囲を分析していた彼は、ふと我に返る。


「――そういえば、わちきの体は……?――」


そう呟くと、彼は警戒しつつ周囲を見回し、みずからの身体――脳から直に生えた4本の触腕の、もたげてみたその先端をまじまじと見つめた。


「……かっ、体がない!? 何かすさまじい負荷が頭部にかかったところまでは覚えていまちたが……

まさか、脳だけがこの場所に達してしまったということでちゅか!?……次元間の転送で!?

たしか意識を失う前に見た最後の光景には――安っぽい造りのマルチバーサルゲートが映っていたような……。なら、気絶している間に廃棄物と間違えて捨てられてしまいまちたか?このわちきが!?」


しかし、彼に過去に思いを巡らせる暇などはなかった。

眼前の巨大な門――半割れのマンホール蓋を思わせるそれが横開きとなり、うずたかい廃棄物の山が、ゆっくりと暗黒の空洞へと吸い込まれはじめていたからだ。


「……これはっ、まずいでちゅ!」

彼は即座に反転し、流れとは逆方向へと這い進む。触手の先端を器用に突き立て、ゴミの不定形な起伏を、高速な“はいはい”じみた動きで駆けのぼった。だが、足場はすでに腐汁に満ち、バランスを崩した身体が傾いていく。


壁際に手をかけ、数mを余勢のままによじ登ったところで、ついに粘滑な油分に負けて体は宙へと弾かれた。


そのまま後頭部から濡れた残渣の山へと派手に沈み込むと、彼の身体は、なすすべもなくゴミの流れに乗って、熱を帯びた長いトンネルへと運ばれていった。その中で、彼はしかし、冷静に状況を分析し始める。


「……ふむ、環境温度の上昇傾向、明らかでちゅな。どうやらこの処分場は、高温焼却を主とした熱源方式のようでちゅ。


熱勾配からの推算によれば、進行距離は約5km。現在の速度ならば、到達まで残された時間は30分強……。まったく――詩情というものがありまちぇんな!

この惑星の文明、どうやら風雅という概念を焼却炉に捨ててきたらちいでちゅ!」


その皮肉な語り口とは裏腹に、彼の思考は次の行動を決定していた。くるりと身体を転がして体勢を立て直すと、顔を上げる。


「……無限なる大宇宙の名において!このマクロブランク様をナメちゃいけまちぇん!」


脳の皺の間に埋もれていた瞳状の器官が、カッと音を立てるように見開かれた。

それと同時に、触手の動きが活性化し、まるでアライグマの手先のような素早さで足元の廃棄物をかき分け始めた。


周囲に散らばる電子機器の残骸――冷却ファン、バッテリーユニット、破損したスマート端末、折れたドローンのアームなど――を次々と選別し、触手の中、パンをこねるような手際で別の構造体へとそれらを組み上げられていく。


彼はその場で、骨董的な真空管と歪なソーラーパネルを組み合わせた、奇怪な造形の装置を組み上げてしまったのだ。


「……ふふ、見た目はポンコツでも、中身はキラリと光る逸品でちゅ。

これだけのガラクタがあれば、サバイバルに必要な機材くらい、ちょちょいのちょいで製造可能でちゅな!わが熟練の工芸技術、なめてもらっては困りまちゅ!」


その声音は不思議な威厳すら帯びていたが、語尾だけは、やはり高性能な愛玩ロボットの音声設定を思わせる。

そのミスマッチな抑揚が、熱いトンネルをどこまでも反響していった。


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


https://x.com/piku2dgod


本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740

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