issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 04 05
腐汁に濡れた残骸の山――その主成分は、有機物の死骸と、それを分解する無数の微生物である。すなわち、そこにあるのはもう2度とは活発に動くことはないはずのものたち。しかしその中に、ただ1つだけ、異様な律動を刻み続けるものがあった。
……ピンク色の触手だ。
食材の断片や廃棄物の陰に埋もれながらも、粘性を帯びたその先端は、お好み焼きに乗せられたカツオ節かのようにぬめりを纏ってうごめき、気流のかすかな変化を追い続けていた。
はたして、その正体は何だろうか?
しかしこの謎が、ふたりの手によって解き明かされそうな気配は今のところない。
シャカゾンビから下された厳命――ゲートの清掃――が、今は何よりも優先されるからだ。
プロディジーとハヴォックに、命じられた労働を拒否する術はない。どれほど不本意であろうと、ここを離れてしまえば、人間の世界にもそれ以外の世界にも彼らの雇用口などないからだ。ゆえに、士気の低い2人は、ただ言われるがまま、それぞれの作業を淡々とこなすだけだった。
地下帝国から借り受けた重機を操り、薬液を満載した散水車で装置表面の汚れを念入りに吹き飛ばす。かと思えば、ワイパーで細部を磨き上げ、時には、隙間に詰まった汚物を素手で掻き出す。作業は煩雑を極め、くわえて彼らの感性は、お世辞にも繊細とは言えなかった。
である以上、彼らが気づくはずもなかったのだ。
静的な残骸の山に、ひとつだけ紛れ込んだ生命の異質な動きになど――。その微細な違和感に、目を留める余裕などあろうはずもなかった。
*
悪臭と汚泥にまみれた清掃作業がようやく終わり、シャカゾンビの号令一下、忌まわしき実験は再開された。プロディジーとハヴォックの顔には疲労と諦観が色濃く浮かんでいたが、シャカゾンビの執念はいささかも衰えていない。幾度となく繰り返される失敗。ゲートが開かれるたび、彼らの目の前には意味不明な光景が展開されては、即座に閉じられていった。
そして、30数度目の試行。ついに、ゲートの鏡面に、どこまでも続く暗黒の洞窟が映し出された。湿度と、有機的な腐臭をかすかに孕んだ空気がこちら側へ流れ込む。シャカゾンビはコンソールの数値を食い入るように見つめ、やがて確信に満ちた声で叫んだ。
「……見ろ、ついに成功したぞ!ワームの生息条件に完全に合致する地下空間だ!急げ、奴を――テラリアキングをここへ呼んでこい!」
ほどなくして、テラリアキングが虫使いたちを従え、無音の闇を湛えたゲートへとその身を投じた。向こう側の世界に渡った一行の姿は、洞窟の奥へと遠ざかるにつれ次第に小さくなり、やがて無尽の暗黒に呑み込まれるように消えた。
息詰まるような1時間が過ぎたころ――2世界の鏡面に、一行の影が汚れのようにしてふたたび混ざり込む。彼らは、何かに追われる者の切迫感を帯びたまま一直線に駆け寄り、地面を蹴って跳躍し、勢いにまかせ、そのまま元の世界に転がり込んでくる。
その有様は、まさしく命からがら逃げ延びた敗残兵のそれだった。
だが、その足は止まらない。
ただならぬ気配に、シャカゾンビの背筋までが冷たくなる。
彼は直感にみちびかれて、ゲートの奥を凝視した。
「……ブチギレてる!お前らも逃げろ!!」
ぼうっと突っ立っている4人に向け、キングが走り去りながらの警告を飛ばす。
直後、ゲートの鏡面が、闇の奥でうごめく金属の躯体をほんのわずかな間捉えた。
だが、次の刹那――いや、ひと呼吸の間もなく、それは光を乱反射させながら得物を追う蛇の執拗さでこちらに迫る。
口蓋の外縁から中央へ向け、放射状に牙が並ぶ環形動物の異形の口腔が、
直径150mあるゲートのほとんどすべてを覆い尽くす。
かつて地上を蹂躙したあの怪物と寸分違わぬ巨躯が、渦巻く筋肉をねじらせ、ついに両世界の境界をこじ開けた。その咆哮は、もはや獣の域を超え、惑星全体が断末魔を叫び上げるかのごとき重低音となる。
全長2kmの巨体が、ゲートの円環を火の輪のごとく跳び越え続ける――その永遠にも似た10数秒間、
なすすべもなく光景を見上げる誰もが、我が身と世界の終焉を同時に覚悟した。
並行世界のメタリック・モンゴリアンデスワームは
解放されたというにはあまりに壮絶な勢いで地下の大空洞へと躍り込み、地面を抉りながら着地する。
その身がうねるたび岩盤は粉砕され、天井からは巨大な鍾乳石が雨のごとく降り注いだ。
このままでは、ちっぽけなこの地下世界そのものが崩落しかねない。
その刹那、稜線の向こう側へ転がり込んだテラリアキングが、すぐさま身を起こす。そして、満身創痍の体で、ただ鋭く、右腕を振り抜いた。
「今だ――やれッ!」
号令と同時に、草原の各所に潜伏していた虫使いたちが、あらかじめ地面に設置しておいたひと抱えほどの四角い蝋へ一斉に火を放った。それはただの煙ではない。鎮静効果を持つ特殊なフェロモンを凝縮した、紫色の濃密なアロマだった。
風にあおられ、幾筋もの煙柱が待ち伏せのように斜めへ昇り、渦を巻いてワームの顔面へ殺到する。
紫煙を吸い込むごとに、狂乱のごとき動きは目に見えて鈍化し、洞窟を揺るがす咆哮も戸惑いを帯びた低いうめきへと変わっていく。
やがて進路を見失ったかのように、その巨躯は緩慢に身を揺らし、ついには動きを停めはじめた。
山脈にも匹敵する巨体は、土砂の渦巻く丘のふもとへとゆるやかに身を沈め、長大な胴をとぐろ状に折り重ねている。
ひとまずは大人しくなったようだが、しかしそれでも、金属の装甲板がこすれ合う時は、大陸がうめくかのような轟音が大空洞を揺らす。
なんにせよ、事態はこうして終息を迎えた。
しかしそれは、火山が息を潜めるわずかな休止のように、底知れぬ不安を孕んだ静けさにすぎない。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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