issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 04 04
「……次ィィ! レイヤーC-14、切り替えろッ!」
いらだちを滲ませたシャカゾンビの声が響き、プロディジーはあわてて端末に数値を入力し直す。
再び、ゲート中央の円環が波紋を描いて歪み、光がじわじわと満たされていく。
その次の瞬間に映し出されたのは――闇。ただしそれは、無数の恒星が瞬く満天の宇宙である。
「まずい……!」
シャカゾンビが、ただ1人その異変の本質を即座に察知する。
そして、唐突に凄まじい風――いや、負圧の奔りが発生した。
「――この宇宙には、地球が存在していないッッ!」
警告と同時に、1t超の体重を誇るカバの獣人、ハヴォックの体躯があまりにも呆気なく浮き上がり、
そのまま、尻から真空の淵へと吸い込まれていく。この時、向こう側の宇宙の様相をありのまま反映したゲートは、何かとてつもなく巨大な獣の、牙をむき出しにした口腔に他ならなかった。
「うわあああああああああ!!!」
ハヴォックの絶叫がこだまする中、プロディジーは咄嗟にみずからの武器――手に巻かれた鎖を、
懸命に放つ。
「掴まれ兄弟ッ!」
その声に応え、
「うおぉぉおおぉ!!」
ハヴォックは宙に舞いながらも眼前を横切ったチェーンの端を掴む。
だが、引き戻すにはいかんせん気流が強すぎる。
ハヴォックは、まさに2世界の境界線上で、生き残りを賭けた戦いを演じていた。
そのたくましい半身は、すでに異界の冷厳な空間に引き込まれており、もしこのままゲートを閉じれば――その身体は上下に分断され、2つの宇宙にまたがる惨烈な断面を晒すことになる。
その危うさは、シャカゾンビにも理解できていた。
「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
やがて、プロディジーが腰を低く落とし、地面に轍を刻みながら、渾身の力でチェーンを引っ張りこむ。こめかみに青筋を浮かべ、一気に引っこ抜けば、バネのように伸びていた鎖が縮み、ハヴォックの身体が一気に引き戻された。
その好機を見計らったシャカゾンビがレバーを即座に引き倒す。
すると空間は収束し、鏡面は虚無のように霧散した。
場に残ったのは、地面に叩きつけられたハヴォックの、ぐったりとした背中と、
「……おまえ、1トンもあるなら風なんかに飛ばされるなよ!」
と、息を整えるプロディジーのぼやきだけだった。
「……気を取り直していくぞ。次、レイヤーD-2だ」
とりもなおさず、シャカゾンビが、ほとんどムキになったような声色でそう告げる。
「えぇっ!?まだやるんすか?!」
プロディジーとハヴォックが同時に声を上げ、顔色を失うが、
「成功までだ!」
その時シャカゾンビの手はすでに勢いよくレバーを押し倒している。
ゲート内の鏡面がみたび歪み、ざらつくノイズを孕んだ液状のゆらぎを帯びる――次の瞬間、
すべての現象に先んじて、とてつもない腐敗臭が空間を裂くように吹き抜けた。直後、粘度の高い異物が堰を切って噴き出す。
それは、野菜くず、骨付き肉片、液状化した果実、調味料の沈殿物、そして明らかに生活廃棄物とわかる残飯の塊だった。巨人のする嘔吐のような濁流が丘の斜面を滑り落ち、粒立った油膜と泡を撒き散らす。
「わあああああッ!」
カーディBが慌てて翼を広げ、弾かれたように空へ舞い上がった。先の海洋惑星の比ではない向こう側からの圧力に、全員が必死で走り去る。しかし幸い、この奔出は時間の経過とともに減衰していった。
最も不運だったのは、ゲートの真正面に立っていたシャカゾンビだった。
逃げ出すのも間に合わず、彼の姿は、レバーを引くがまま生ぬるく不快な濁流に正面から呑み込まれていったのだ。
やがて山肌が崩れ落ち、ようやく上半身を現した彼は、カボチャとオレンジの皮を溶かし込んだような得体の知れない粘質液に全身を覆われていた。
肩口を伝うそれを追うように、炒め損ねたキャベツや揚げ油のかす、コーンスープの凝固塊が流れていく。
「…………うぅむ」
山を抜け出したシャカゾンビは表情を変えぬまま、汁にまみれた手で制御パネルに寄りかかると、無造作にレバーを下げ、ゲートの命脈を一時的に断った。
その眼窩のくぼみにはピーマンの切れ端が貼りつき、さらに背後から飛来した生魚の尾びれが「パシン」と音を立てて後頭部に命中する。
「……チャンネルの選定基準を、再考せねばなるまいな。
“隣の宇宙”と言えど、同質の地球が存在する保証はない。とにかく、一旦、実験からは離れる!」
シャカゾンビは踵を鋭く返し、濁流に濡れた背中を振り払うように進んだ。
「で……この、めちゃくちゃな量のゴミは……?」
「吾輩がこういう時、いつもお前たちにどういう指示を出すか。思い出してみろ」
そう言って、彼は肩に留まっていたエビの殻を掴み、手の中で静かに握り潰した。
腐汁を含んだ甲殻の破片が指 の間からこぼれ落ちる。シャカゾンビはケープの裾を整えつつ、
ぐちゃぐちゃになった白骨の頭部を片手で無造作になぞった。
「……ええーっ!?」
「この片付けはさすがに……」
「うるさい、さっさと動かんか!装置に匂いがわずかでも残っていたら減俸だぞ!」
「そんなこと言われたって、俺ら、もうだいぶ前からタダ働きですよ?」
このプロディジーの抗議に、シャカゾンビは一瞬虚をつかれ言葉を詰まらせた。一連の失敗は、彼のパワハラ気質を鈍らせるには十分だった。
「……とにかく清掃が終わり次第、実験を再開する。なに、あとはトライ&エラーだ。お前たちは辟易していることだろうが、どんな実験にも、総当たりで解決するしかないという局面はつきものなのだ」
「マルチバースって、もっとこう……夢のあるもんだと思ってたぜ……」
上空からこの様子を見守るカーディBが呟いた言葉に、応えられる者は誰ひとりいなかった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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