issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 04 02
テラリアキングは、しばらくのあいだぽかんと口を開けたまま、ただシャカゾンビを見つめていたが、
やがて、もっともな疑問を口にする。
「マルチバース、はぁ……?だけどよ、もしそんな芸当ができるんなら、ハート・オブ・アースも別世界から呼び寄せりゃ済む話じゃねぇのか?」
するとシャカゾンビは、肯定とも否定ともつかぬ塩梅でわずかに首を振った。
「うむ、もっともな疑問だ。その質問についてはこう答えよう。マルチバースにまつわる諸々の技術というのは、吾輩にとっても……いや、おそらくは誰にとっても、
完全に掌握できる類のものではないと――」
彼は言葉を選びつつ、言い含めるように続ける。
「――つまりそれは、宇宙そのものを玩具として弄ぶにも等しい行為なのだ。
ゆえに、運用には厳格な制限を設けねばならぬ。並行世界への干渉は、常に両側の地球――ひいては宇宙全体に滅亡の危険をもたらす。
ひとたび事が起きれば、取り返しのつかぬカタストロフになりかねぬ。……それは断じて吾輩の本意ではない」
そして、口調をいっそう厳峻にし、
「よって、今回はワームの召喚にのみ用途を絞る。
他宇宙への干渉は必要最小限に抑え、リスクは極力回避する――それが良識ある悪人の作法というものだ」
最後に、そう断言する。
*
……冷却管の間欠的な音が、反響をともなって耳にこだまし続ける、密閉された地下環境。
そこはテラリアの科学研究施設群に存在する講義堂のひとつである。周囲を厚さ数mの鉛とコンクリートで囲まれたその部屋には、いかなる自然光も差し込まない。
唯一の空調は、壁面の高所で低く唸りを上げ、ホコリを含んだ人工の風を送り込むばかりで、その空気でさえどこか鉱物めいた鈍重さを纏っていた。
部屋の広さは大学の大講堂にも匹敵し、天井には金属製の配管が網の目のように張り巡らされていた。
その合間には、監視カメラが複数台組み込まれており、この空間が純粋な学究の場ではなく、監視と制御の網の下にあることを否応なく印象づける。
部屋の最下段――すり鉢状に沈んだその中心部には、PC端末とホログラムディスプレイの土台部が、おなじ机の上に並んで配置されている。
各装置は、有線によって機能単位での独立を許さぬほどに結合されており、非物質的に構成されたモニターは青白の淡光を発しながら、音もなく何ごとかの演算を続けていた。
シャカゾンビは、壁際に据え付けられたサッシ型のホログラムプロジェクター――アナログの黒板と同じ役割を果たす構造体の前に佇み、掌に収まるマグネットスティックを軽くかかげては、立ちのぼる光子のスクリーンに編み込まれた図面や数式の数々を、ひとつひとつ指し示していく。
カーディBを肩に乗せていることもあって、その姿には、忘れられた時代の錬金術師が蘇ったかのような異様な風格が漂っていた。
明滅するスクリーンの光が彼の顔貌を照らし出すたび、青白い輝きが眼窩の奥へと溶けるように流れ込んで、骨格の微細な起伏までもが際立って露わになる。
それはまるで、受講者として席を連ねる地底の学者や技術者たちの反応を、上目遣いをしてひとりひとり観察しているかのような、そこはかとない仕草にも映った。
「……無限の可能性を持つマルチバースには、たとえば、物理法則や数学定理そのものが根本から異なる宇宙が存在する。
具体例を挙げるなら――原子構造が四角や三角形をなしている世界。
あるいは、原子や素粒子、4つの力という観念すら存在しない、意味体系からして断絶した宇宙だ。
もし何かのはずみで、そうした宇宙がゲートに映し出されれば……その瞬間、我々の側は即座にゲームオーバーとなるだろう」
「原子が四角……リアルマイクラってことか?」
講堂の片隅には、プロディジーとハヴォックの姿もあった。だが、異なる次元間を連結する具体的な方法という、地球人類にとっては史上初となる記念碑的講義の只中にありながら、この2名の聴講態度といえば、幼稚園児も同然だった。
「おおいいね、やりたくなってきたぜ!」
案の定、ハヴォックは言葉の誘惑に抗しきれず、手元のスマホで『MINECRAFT』を即座に立ち上げた。
しかしその直後、宙を裂いて飛来したチョークが額を直撃し、
「――うッッ」
彼の巨体は、見事後頭部から床へ倒れ込むことになった。
その間にもモニターは、記号と図式を一定の間隔で切り替え続け、そこに一瞬、幾何学的な迷宮めいた構造体も映し出される。
その直感的な理解を拒む映像に、居並ぶ研究員たちは顔をこわばらせる。
シャカゾンビは1拍の間を置き、声の調子をわずかに落とした。
「……だが――吾輩が用いる『∮ᚦ≠⟁∴⧫₪⌰ↃЖ(宇宙言語による発音)』……いや、訳そう。
『トポロジカル・コンコード』式マルチバーサル・ゲートならば、話は別だ。
この方式のゲートは、エキゾチック物質を呼び餌として投じることで、それが本来属していた宇宙、
あるいはその近傍に位置する宇宙の“チャンネル”を選択的に開くことができる。
つまり――無作為な干渉ではなく、『縁』や『物質的相似』に基づいた制御が可能ということだ。
必然、これは“探し物”にも適したチャネリング方式となる」
……トポロジカル・コンコード。「異宇宙との位相の一致を精密に調律する」という意味合いに取れる語であり、スクリーンに映し出されたその装置の設計図は、
古代の銅鏡と粒子加速器とを悪夢的に融合させたような外観を呈している。
「……たしかに、電器屋で売ってるのは見たことないな」
プロディジーはどこか呆れたように、そう感想をもらした。
「いや、こりゃ羽ナシの扇風機に似てるぜ!」
ハヴォックは何かを得た顔で席を蹴立て、指を鳴らしながら、突拍子もない着想を堂々と口にする。
その直後、宙を裂いて飛来したチョークが額を直撃し、ふたたび彼の身体は後頭部から見事床へ倒れ込むことになった。
――講義はまだ、ゲートの概要を説明したにすぎず、 具体的な理論には一切触れもしていない。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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