Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 01 13
「前のヤツよりは強かったけどこんなもんかぁ」
大国が誇る先端軍事技術とやらの陳腐さに拍子抜けしてしまったスヌープキャットは、ネコ科の遺伝子がうかがえるしなやかな軌道を描いて首をゆるりと落とし、レスリングのふところ深い構えを取った。
顔の下部――その、逆さにしたカモメと見紛うような口元――が、さらに広がりをみせていく。
対するは、弾痕まみれの寺院の一角。
そこでは、鉄の履帯が信じがたい速さで唸りを上げ、その上に乗った60tもの鋼鉄の巨体を強引に前へと推し進めんとしていた。
自動操縦によって爆進する戦車と、低空タックルを仕掛けるスヌープキャット。
両者は、真正面から激突し――次の瞬間、地上には、晴れやかに「人」という文字が刻まれた。
「……さすがよはちる!獣人の中でもさらにすぐれた怪力でその毛並みは硬軟自由自在、在りし日の高天原でもこれほどの勇士はついぞ見なんだ!」
と、尊は胸奥の血潮が煮え立つのを抑えきれずに呟いた。
「人という字は、人と人とが支え合ってできている」――金八先生のそんな教えはよく知られているところだが、
今この瞬間に出現したその「人」の形は、元のなりたちなどよりもはるかに神話めいていた。
小さな獣人の掌が、大いなる鋼鉄の戦闘車両を大地から浮かせ、底面を支柱のように真っ直ぐに押し上げる。
そうして完成された字形は、日常語における「支え合い」などとうに超えた、荒々しい均衡の構造の具現だった。
……そういえば、スヌープキャットの口元も、どこか人という字に似ていなくもないか?……いや、これは私見だ、忘れてほしい。
キャタピラをもがかせてなお進まんとする戦車の車体を、なんら気負いを見せぬ一挙動で、そのまま天へと持ち上げたスヌープキャットは、
「もう終わっていいの?」
と、無邪気な調子でゲームの主催者に問いかけた。尊は、その問いに応じるように、両腕で頭上に大きな丸を描いてみせる。
ぼさぼさの長髪が後ろ姿のほとんど全印象を占める少女は、
宙に弾ませた全長10mの車体を、やにわに両腕を掲げて構え直す。
それは、天空を仰ぐようなベアハッグの構えであり、
轟音一閃。
たった1度の抱擁にて、鋼鉄の巨塊は、まるで閉じられてゆくアコーディオンのように、複雑怪奇な壊音をともない粉砕された。
「んじゃあおせちにそいつをやっとくれ、それでお前の試験は終わりじゃ」
「ん〜……」
「……準備運動の続きみたいな話だったね!」
まず、満足感から出たものではないだろうその感想。
スヌープキャットは、鉄塊を片手で軽々と宙へ放る。もとは60tの戦車だったものが、人の腕によって無造作に浮かされる姿は、まちがいなくマグリッド的シュールレアリズムのひとひらだ。
「ブンッッッ!!!!」
突如として白い獣人の拳がうなりを上げれば、その先端には、烈風のきざしが灯った。
空気を裂く音が場を支配し、地表スレスレ、天地の際を撫でるような高さを、風の螺旋をしたがえて彼女の拳は巡りゆく。
その低められた姿勢のなんと野性的なこと、舌をお茶目に飛び出させてせり上がる顔の、得意げなこと。
暴風が空間にきざんだ、しなやかにして苛烈な線条が、鋼鉄の底面にやがてめり込めば、
物のにぶく破砕する音は、瞬間、この世界の特異点となって、風も、音も、すべての感覚がそれを期に反転する。
重力の呪縛は断たれ、60tの戦車は、呆れるほど爽快に空へと打ち放たれた。
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