issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 03 12
「最近の子ってさ、本名より先にハンドルネーム名乗りがちだよね!」
唇の端をわずかに吊り上げた少女の言葉に応じて、宙にかろうじて留められていた見えざる世界の均衡が、音もなくはじけ飛ぶ。
カィンッ!!
次の一瞬には、ふたたび互いの武器が激突し、乾いた金属音とともに、夜の高所に鋭い火花が縦横に散った。
むき出しの殺意が形を取ったかのような刃と鈍器は、
命をかなぐり捨てた猛禽の鉤爪のごとく、後先も省みずに繰り出され、
音速をゆうに超えて幾度となく交錯し、その軌跡が空中に複雑な網目を刻みつづける。
太刀筋と打点とが互いに濃密に干渉し合い、
刹那の遅れすら命を左右する、極限の応酬が続く。
「おらよぉッ!!」
本人の体格は寸胴で小柄、手にする武器は槌と銃の変則的な二刀流。
必然的に生じるリーチの不足を補うべく、テラリアキングの戦闘様式は見た目に反して驚くほどしなやかで、舞踏を思わせるような躍動感すら漂わせていた。
――ブゥン!
ハンマーがイムノの腹部を浅くかすめ、返すガンブレードを、続いて繰り出す銃身が払う。
(重いなっ……!)
その一瞬を逃さず、テラリアキングはすぐさま距離を詰め、旋回とともに身を沈めた。
膝を支点にして重心を傾け――そこからさらに地を蹴っての一撃だ。
反動ごと力を乗せて繰り出されたハンマーが、放物線を描いて飛来する。
イムノの頭部を狙ったその一撃は、かわす暇もなく直撃し、
「ぐっっ!!!……」
彼女の身体を軸から無理やり捻じ曲げて倒した。
「……なんてねっ!!」
――だが、イムノは倒れ切らなかった。
そうしたかに見せかけて、その全運動エネルギーを、巧みに反撃へと転化していたのだ。
膝を折ると同時に重心を制御しきったまま、身体を低く構え、そこから地をなぞるような360度の足払いへと移行する。スクールローファーを履いた足の甲が、ジーンズ越しのふくらはぎの奥深くにまでめり込み、
「ぬぅっ!」
反射的に跳ね飛ばされたテラリアキングは、
強い弾性を受けて後方へと転倒した。それはふたりして、「∞」という字の半分ずつを描くかのような刹那の攻防だ。
しかし、追撃の余地は与えない。
腹ばいになったままテラリアキングは左手のスクラップガンを持ち上げ、気を張るようにして即座にトリガーを引いた。
ドゴォンッ!
炸裂したのは、高温高圧の弾丸。
火山の噴火を模すような煤煙が銃口から膨れ上がり、煙と熱がイムノの視界を丸ごと焼き潰す。
その砲撃は、もはやショットガンというより、瞬発的な火炎放射器そのものだった。
「わっ!」
イムノは持ち前の反射神経により、追撃を寸前で止め、火焔の壁を越すようにジャンプした。
煙が晴れ、視界が戻る頃には、位置こそ入れ替わっていたが――ふたりはまた、わずか数mを隔てて対峙していた。
その刹那、ふたりの戦士は互いの戦法が本質的に相似していることに、ほぼ同時に気づいたようだった。
「武器の構成、おんなじか!」
イムノが、その気持ちを声にしてみせた。
「なら、勝ち負けはウデで決まるってこった!……」
テラリアキングが片頬を吊り上げ、煙の中でハンマーを逆手に構え直す。
「――年季の違いを見せてやるよ!」
「いいね!」
刹那、空気が爆ぜ、両者はふたたび激突した。
火花が飛沫のように鋭く奔り、踏み込みの衝撃とともに、砕けたワームの装甲片が四方へ散る。
夜の高所にあって、閃光と衝撃音がまた幾重にも交錯する。
テラリアキングは大きく踏み込み、身体をきりもみ回転させながら、敵めがけてまっすぐに突進する。
遠心力を乗せた回転の勢いごと、渾身の横薙ぎを放った。イムノはそれを紙一重で後方へと跳ねてかわすが、
「そら、次々いくぜェっ!」
ワームの背面装甲に足を付けてからの、テラリアキングの連撃にも淀みはない。
前のめる攻勢と、後退する防御とが、阿吽の呼吸でワームの背筋に軌跡を描いていく。
だがその流れの只中、テラリアキングは一瞬の間を、異なる目的に充てた。
重たい上体を足ごと沈ませ、影を作るようにかざした腕の下から、もう片手に握ったショットガンの銃口を突き出す。
隙を晒したにも等しい1手――その時、イムノの脚が地面を強く踏み込んだ。
一気に空気を圧縮し、周囲の粒子を震わせる彼女の身体は爆縮の芯のように収束し、
音の壁を突き破った突進が戦場を貫いていく。
瞬間、テラリアキングの左手が“手品”を披露した。
関節の構造すら疑うほどに自在な動きを見せながら、手がツールベルトの上を無音のまま滑走し、
気づけばすでに、鉤爪の付いたチェーンが弾丸さながらの加速で抜き放たれていた。
(!!)
放たれた鉤は、咄嗟の判断で身を捻ったイムノの肩甲骨の裏へと、寸分違わず喰らいつく。
「いッッッ!!!」
オールラウンダーに施された“英才教育”の賜物――
尋常ならざる頑強さを誇る肉体が、鉤が皮膚を穿つことまでは防いだが、
それでも背中に走る衝撃は強烈で、肩の奥にまで焼けつくような痛みが突き抜ける。
そのわずか一瞬、注意が逸れた隙を突くようにして、テラリアキングにとって必勝の”形”が完成に向かう。
彼は、身体を大きくひらきながら構えを整え、
ソードオフ・ショットガンの銃口を、まるでアッパーカットを放つ拳のごとく、弧を描いて大胆にすり上げた。
するとその銃口が――なんと、イムノの腹部へと、寸分の隙もなく密着してしまう。
轟然たる発砲音が夜気を震わせ、銃口からは特大の噴煙が噴き上がる。
――ドォン!!!!!!
それは、ワームの体躯をひとつの道とみなせるほどの遠景──そのかなたからさえも、空の1ヶ所にくっきりと刻まれるほどの、比類なき明度と量感を備えた白濁の柱だった。
「~~ッッ!!」
爆炎に巻かれたイムノは、顔にも胴にも焼け付くような熱を受け、そのまま後頭部から激しく弾き飛ばされた。
体は制御を失い、時化の海のように常に角度を変え続けるワームの背を滑落し、翻弄されるように何度も転がり落ちていく。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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