issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 03 10
まとわりついていた煙を振り払うようにして姿を現した彼女は、
両腿をそろえて右へと突き出しつつ膝を折った。
スクールカーディガンの裾を大きく広げたまま、風の甲高い鳴き声と、それに呼応する衣の脈動を身にまとい、悠然と空を渡っていく。
その真下に、ふと開けていったのは――まるで天を逆さに映したかのような、星空めいた夜景だった。
無数の灯火が一斉にイムノの身体へと群がるように照り返し、
その莫大な光量は、まるで彼女をもう一段、夜空の高みへと押し上げようとするかのように見えた。
そして、ひときわ高所に張り渡された気流を受けて、首元から1度、カーディガンの全容が鮮明になびいていく。
刹那、空気が張りつめ、何事かの“機”が仕切り直されたかのような感覚が、彼女にも、我々にも、同時に訪れる。
イムノは右手のガンブレードを、馬賊がライフルを扱うように横へとキザに傾け、
口元から短く、凛然たる声を解き放った。
「ソイルッ!」
その瞬間、ガンブレードから放たれた「ソーダ味」のソイルが、
まるで消防車の放水めいて雄々しく噴き出し、発射されたそばから無数のつららをしたたらせつつ一直線に空を駆けた。それはやがて、高層ビルと隣のビルの角を結び、薄く、危うげながらも確かに――氷の橋を架けてみせたのだった。
すでに体を十分に丸めていたイムノは、その姿勢のまま氷面へと背中から身を預け、
次の瞬間には白い火花を撒きながら、氷上を流れるように滑り込んでいた。
滑走のあいだ、重心はつねに低く保たれ、その動きは淀みなく、安定している。
敵機――エンジン駆動のグライダー型戦闘機――が搭載するロッドガンの砲口からは、
赤いプラズマの塊が連続して撃ち出され、氷の滑走路を目がけて迫る。
しかしイムノは、その攻撃に対して一切の動揺を示さない。
ただ身の軸だけをわずかに傾け、夜空をえぐるようにガンブレードを回頭させ、
「撃つ」と定めた瞬間にのみ、その回転動作を機械的に止める。
カン――!
カン――!
カン――!
すると、放たれた曳光弾が正確無比な照準のもと、群がる敵機の中枢を百発百中で貫いていくのだ。
撃ち抜かれた機体は、内部から火柱を噴き上げ、あるいは翼を折り、
操縦者があわただしく脱出する直後には、制御を失ってビルの側壁へと激突していく。
爆散の痕跡と衝撃波を撒き散らしながら、
それらはやがて、都市の高層を照らす炎の花のひとつひとつへと姿を変えた。
氷の滑り台の終端となるビルの屋上へと滑り込むと、そこにもまた、蛮風の仮面をかぶった兵士たちが待ち構えていた。
スクラップを継ぎ接いで作られた粗野なライフルを構え、茶褐色の長いローブをまとった彼らは、
上空からの突入を受ける直前から、異物の侵入に対し、まるで免疫系が作動する肉体のように過敏に反応してブラスターを一斉に乱射していたのだが、それが本格的な集団射撃へと移行し、瞬く間に、光と音の奔流が屋上を覆い尽くしていった。
だが、イムノはその中を的確に進んだ。まるで合わせ稽古の段取りのように、ターンを多く取り入れた最小限のステップだけで間合いを刻み、
わずか数度、雷を纏った刃を翻すことで、次々と兵たちを昏倒させていくのだ。
そのまま、雷光を身に宿した彼女の身体は、屋上からビル街のパノラマを真横に駆け抜けるように飛翔し、ほとんど瞬間移動と呼べる速さで、次なるビルの上空へと滑り込んでいく。
「ソイルッ!」
空中に響き渡ったその声――それに呼応して引かれたトリガーとともに、彼女の姿には、手元から異なる色が滲んでいく。
眼下から立ち上る光と影を鋭く反射し、正弦波状の光紋が絶え間なくよぎるようになった銀色の体は、
異様なまでに肥大化したガンブレードを、肩担ぎに構え始める。
「こんにゃく味」のソイルによって強化されたその刃は、放物線に乗って降下する肉体の運動に沿い、
建物のコンクリート層へ深く突き入れられ、
やがてビル全体を――あたかもケーキを無造作に押し切るかのごとく――大胆に刻み割っていった。
その刃面が抜けるのに1拍遅れてずり落ちはじめた岩塊は、ちょうどこの壁を這い昇ってこようとしていたメタルスラッグ軍団の頭上へと降りかかり、
咄嗟の反撃としての、生ける戦車とその乗り手たちは、大きなコンクリート塊ごと地上に引きずり落されていく。
その刃面が抜けるのに、1拍遅れて切断面は岩塊としてずり落ちはじめる。
崩落の重みは、ちょうどこの壁面をよじ登ろうとしていたメタルスラッグの一団に容赦なく覆いかぶさった。
咄嗟の反撃として放たれた重火器の砲火も、重厚な砲火も射線がまるで合わぬまま、
生ける戦車とその乗り手たちは、巨大なコンクリートの塊ごと壁面を落ち、地上に引きずり落されていく。
そしてイムノは、一瞬の逡巡も見せぬまま、みずからの手で顕現させた断崖のふちを軽く蹴り、
灰色の瀑布――降り注ぐ瓦礫の濁流の中へと、姿をそのまま頭から溶かし込んだ。
飛び交う瓦礫のなかでも、ひときわ大きな1片を一時の足場としてしゃがみ込み、
雷のソイルを再び全身へと充填すると、空中の地盤を盛大に爆砕しながら、
自身の残像だけをその場に置き去りにして、はるか彼方へと飛び立っていった。
次の瞬間には、人体を芯に据えた1条の稲光が、
遠くの空を飛んでいた敵戦闘機のキャノピーへと突き刺さる。
余光を揺らめかせながら、その機首の上でイムノは小さく身を旋回させた。
「――!」
パイロットが何かを叫ぶより早く、イムノは後ろ宙返りの軌道で機体の首をさっと斬り落とし、
胴体に生じた爆風の中から、さらに影を射出させる。
その勢いをまったく殺すことなく、彼女は飛び込んだ。
亜音速で飛行する編隊機――飛行機雲を相互に編み合いながら、空を緻密に織り上げていく、その立体構造の只中へと。
イムノは、まるで八艘飛びのように戦闘機の間を縫い渡り、各機の上に次々と着地しては、
そのたびに一刀を装甲の奥深くへと滑り込ませ、鮮やかに斬り裂いていく。
彼女の進路であり、また足場となったすべての機体は、斬撃によって正確に割かれ、
爆発の閃光と破片を空中に撒き散らしながら、一定の間隔で空を崩れ落ちていった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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