issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 03 09
ミーティスは落下の勢いをそのまま用い、足元へ札の結界を半球状に展開した。
その斥力は、地面に浅い窪みを残すほどの衝突力を発生させ、着地の負荷を完全に打ち消す。
彼女の背後には、やや遅れて札の群れが幾重もの帯を描きながら降下し、守護者のように身を包んだ。
そして次の瞬間、ミーティスと札の一団は、昼間よりも明るく照らされた都市の大通りを、ホバーダッシュで一気に駆け出す。
絶え間なく迫る対向車の群れ――フロントライトの輝ける視線、ミーティスは瞬間の分析力を瞳に宿し、ひとつの過ちもなく、その速い流れのような車間を突き進む。
――フゥン!
すれ違うドップラー音は機械仕掛けの羽音、鳴りやまぬクラクションは情緒を欠いた虫の声だ。そんな無機質なすだきの中、札は細長く変形し、まるで鯉のぼりのような姿で風をはらみながら、彼女に忠実に追従し続けた。
「――!」
そのとき、ハンドルを誤ってタイヤを浮かせかけた車両が、目前に現れる。
ミーティスは即座に正面からそれを捉えると、地面を蹴って加速し、大きな放物線を描いて自分も宙へ舞い上がる。
完全に浮き上がった車体とすれ違いつつ、空中で身をひねり、螺旋の回転へと移行――
その動きに同期して、全身を覆っていた札が一斉に渦を巻き、
星空を長時間露光で撮影したかのような白い軌跡を、空にひとつ、残していった。
――バンッ!
その雄大な札の渦が飛んだ車のルーフをはたきつけ、衝撃だけで車体は姿勢を立て直し、
バウンドしながらではあったが元のレーンの脇に強制的に着地した。
「……気を付けてね!」
次の瞬間にはたゆまぬ疾走に戻り、衝突の現場を背後の遠景へと押しやっていたミーティスが、
その去り際に残したのは、どこか親身な響きを帯びた、ひとことの置き土産だった。
車両そのものに損傷は見られなかったが、
運転手は極度の混乱に襲われたままアクセルを踏み込み、怒涛の車列へと逃げるように再び紛れ込んでいく。
*
混迷の大通りを抜けたその先では、とりもなおさず、向こうから数機の支援機が低空飛行で突入してくる。
操縦手たちは、地上人という獲物を追い立てるため、ロッドガンを連射しながら進軍している。
弾幕の起こす爆風は、ミーティスの視点から見て奥から手前へと連なる順で、道路に放置された車両群を次々に吹き飛ばしていく。
炎が炸裂し、車体は激しく跳ね回り、アスファルトを抉りながら弧を描いて散っていった。
この光景を前に、ミーティスは両足で踏ん張り、地に足付けた反動によってアスファルトに白波のような衝撃波を蹴立てていた。
胸前へ突き出された掌には札が一斉に集束し、またたく間に1000を優に超える呪符が反転しながら展開され、空間に巨大な結界の壁が築かれる。
そこへ支援機から放たれたミサイルが殺到し、一斉に札の壁へ突入する。
連続する爆発が、光と煙の山を横向きに築きあげ、小型のグライダー機は衝突を避けるべく機首を急上昇させた。
だがその背後で、札の束が一瞬で陣形を組み替え、獣じみた加速で追いすがる。
次の瞬間、連鎖的な炸裂が発生し、中空まで逃れた機体をことごとく空中で引き裂いた。
機体は、発光するオレンジ色の断面を露わにしながら、街灯の茶と紅が滲んだ路面を、火の粉を散らしながら空虚に滑走し続ける。
「飛ぶなら……落ちる覚悟もないとね!」
黒煙にまぎれてなお中空を旋回する札が、高潔な輝きを放ちながら、すでに次の目標や、あるいは逃げ遅れた市民たちの救助へと急行していた。
*
イムノは数100mの上空から、乱雑に交錯する照明に全方位を照らされながら、ほとんど頭を差し出すような体勢で、真っ直ぐに降下していった。前髪は風にあおられて逆巻き、額からはね上がった細い毛先が、宙に差し込む光を掻き乱すようにちらつく。
その下では、街灯の落ちたアスファルトが、くすんだ暖色を帯びながら、徐々に視界いっぱいへと迫っていた。
腕は完全なV字を描いて天に突き出され、長いピンクのカーディガンは気流に捉えられて、
襟元から裾の方向へと順々に、波が走るように、ひらひらとせわしなく翻り続けた。
降下の最中、急に背筋を反らした制服姿の剣士が、得物たるガンブレードを大上段に構えると、
その動きに合わせて布と髪が一段と強く後方へ引かれる。
刀身の先端が夜気を裂いて、ビルの屋上めがけて一気に振り下ろされる。
刃が触れた瞬間、鈍く硬質な音が鳴り響き、
屋上全体は、突入の勢いそのままに中心から一気に突き崩された。
そこから、半透明の衝撃波が球状に――そして強情に膨張していく。
周囲に布陣していた敵の小隊は、刃そのものに斬られるまでもなく、
押し寄せる空気の壁に打ち据えられ、無様に吹き飛ばされる。
さらに、外周を飛行していた支援機の群れも、突風の直撃を受けておおきく揺さぶられ、
まるで臆病者のように、近郊の空域から慌ただしく退散せざるを得ない。
屋上の床全体に稲妻模様を走らせた巨大な斬撃の力は、そのままビルの内部へまっすぐ突き進み、
ゆうに10階層を突き抜けて、白い粉塵を各階の裂け目から勢いよく噴き上げる。
破砕されたコンクリートの断片や、鉄骨の細かな破片がたかく舞い上がる粉塵に混じり、爆ぜるように四方へ散る。
散乱した光源のフレアがそれらの欠片をひとつずつ刹那的に照らし出し、
暗がりの中に、瞬間ごとのきらめきと軌跡を刻んだ。
気を失った敵兵たちは、崩れかけたビルの壁際に沿って円を描くようにうなだれ、
割れたコンクリート塊が織りなす隙間からは、衝撃の余韻を孕んだ白い粉塵が、
今まさにもっとも激しく、湯気のように噴き上がるといったところ。
火のついた煙草のようにくすぶるビルの只中から、
ひとつの影が白い尾を引きながら、慌ただしく外界へと飛び立つ。
――当然、それはイムノだった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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