Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 01 11
「よし上出来じゃ、”あめりか”まで行くならパスポートはちゃんと忘れずにな!――」
1人目の挑戦を最後まで見届けた尊は、視線を大きく下方へと切り替える。
「――次、スヌープキャット」
その呼び声が響くなり、
「うん!」
雪のような毛並みに黒革のコスチュームをまとった大柄な獣娘が、握り拳を胸元で力強く叩き、勢いをつけて歩み始める。
地域の猫たちが、どの個体ともなく静かに退いて開けた道を、彼女は王者の風格で進んでいった。
アメリカ軍の現行世代戦車、砂漠色に塗装された「M1E2エイブラムス」が、広大な禅庭の片隅に堂々と停められていた。
正面から見ると、戦車の砲塔は2層構造の菱形をなし、左右の角部には細長いスリットが刻まれている。
その隙間には、電磁気的な機能を担う四角いパネルが、歯列のように整然と上向きに並び、”これ”が、装薬弾を撃つことは決してないと確信させる。
近未来的な弾頭射出装置をお堂へと向けたこの装甲戦闘車両は、吉濱ファミリーきっての肉体派――クリスマスツリーのように跳ね回る長い髪と、
くすんだ白の体毛に覆われ、どこまでいっても「毛」の印象だけは拭い去れない少女と、一定の距離を隔てて対峙することになった。
行き場ないエンジンの力でたえず散漫に揺れている戦車には、強烈な不穏さがあり、
背景に広がる瓦塀と灰砂利の日本的な風景が、その不協和を一層際立たせている。
「設定終わったー!20秒だからねー!」
2020年代に現役だった「M1A2」と比べ、輪郭の簡略化が相当すすんだ砲塔部のキューポラから、バネ仕掛けのいきなりさで人の上半身が飛び出してきた。
それはさなだった。黒い道服を身にまとい、巨大な萌え袖をまるで旗のよう振り回してから、戦車を降りる。
「わかったよー」
スヌープキャットは、自身の立ち位置で、まるでクラゲのように無重力に参道を引き返すさなと短い言葉を交わす。
「まず50口径からね」
「うん」
すれ違いざま、スヌープキャットの返答を耳にしたさなは、きょうだいの肩を優しく撫でるように触れながらその場を去った。
人の脛くらいの高さを棚引くもののように聞こえていたガスタービンエンジンの音が急に1オクターブ高まったことで、エイブラムス戦車が目を覚ましたのがわかった。
動き出しは瞬く間である。砲塔の頂部に据えられたM2マシンガンが、ガンナーも不在のまま、連続する排煙とともに直径12.7mmの円錐弾を噴き出した。
この武骨なヘビーマシンガンは、駆動部のぎこちなさを圧倒的な馬力で補い、発射までの流れを力ずくで滑らかに仕上げる。その荒々しい射線の約30m先に、雪色の毛に黒い斑点を浮かべたネコ科の獣人が、静かに立ち尽くしていた。
一瞬にして身の危険に晒されてしまったスヌープキャットだが、しかし彼女にはどうもその当事者意識がない。両手を腰に当てた仁王立ちで、己の勇猛を示すがままなのだ。
1発1発が人の指大にもなり、標的が1枚のブロック塀だったとしたら発泡スチロールも同然に粉砕するし、3枚並んでいても貫通できるほどの威力をもつ弾丸の列が、1秒もしないうち、そこには殺到した。
しかし、冷酷な運命が、かならずしも天の定めた結末を導くとは限らない。多くの者は予兆すらなく訪れる悲劇に膝を屈するが、桁外れの存在が相手ならばどうなるか。スヌープキャットは、まさにその仮定を体現する者だった。
人間、知的生命体、ひいてはあらゆる生命体が持ちうる能力の中の、最も明白な点で彼女は桁外れだった。物理的な強靭さだ。
弾頭の1発ごとに15000Jの運動エネルギーを宿して、200回以上も繰り返された生命への突撃は、
ただの1度も、彼女の、タンポポみたいな体毛の層を突破できなかった。
「……触った感じもしないね、こんなの!」
今、スヌープキャットの身体は、調子に乗った子供の指が干潟に次々と穴を開けたような状態になっている。だが、それでも彼女の顔は常に明るく愛くるしく、
その自信の通り、攻撃を受けている間彼女は微動だにしなかった。
「……安売りのイモみたいにしてベビーベッドに並ばされてた頃から、こいつの毛はチリチリしてたまらなかった。
それが最古の記憶になるくらいにな。また被害者が増えるみたいでうれしいよ」
上空を漂うホットショットは、彼女らしい言葉で風変わりな姉妹を称賛する。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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