issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 03 03
その瞬間――。
地面の下から伝播する不規則な振動が、ドバイの夜景を根底から揺さぶり始めた。ゴゴゴ……。 交差点の信号機が悲鳴のような金属音を立てて軋み、アスファルトには縦横に亀裂が走り、地表はわずかに盛り上がる。一帯に広がる都市の喧騒が、急速に緊張へと転じた。
走り去る車両、悲鳴とともに四散する群衆。人々は咄嗟の本能に従い、目前の混乱から逃れようと我先にその場を後にする。舗装面がより顕著に隆起し、舞い上がる土埃が視界を覆う。街灯やビル照明の一部が断続的に点滅を始め、配線の断裂により生じたノイズがあたりに漂い、異様な雰囲気が加速度的に空間を侵蝕していく。
やがて、地表が蠢くように波打ち、それから1拍もおかず、都市の中央部をつらぬく幹線道路に巨大な断層がぱっくりと口を開けた。
――ドゴォォォォン!!
その土砂の渦中より、テラリアンが誇るメタリック・モンゴリアン・デスワームが頭部を突き出す。全長の知れぬ肉体は、露わになった部分だけで既存のビルを凌駕する太さを持ち、金属質の外殻は油分を含んだ光を放ちながら、ななめの角度でそのまま立ち上がっていく。ズズズ……ッ! 胴の装甲板は果てなく連なり、周囲の建造物はその軌道に応じて次々と影を受け止めた。
無数の牙が、内向きに集束する口腔部が荒々しく押し開かれた。その動作とともに、この異形の存在は、まるで月を目指すかのように無限の夜空へとためらいなく上昇を続ける。躊躇なく、ひと時たりとも止まることなく、あらゆる建造物の輪郭が誇る威容を過去のものとしながら、ワームの肉体は、ただ純粋な上昇運動としての“伸び”を誇示し続けた。
そしてついには、市内有数の超高層ビル――その屋上の縁に、喉元が激しく横たえられた。
ドスゥゥゥンッ!
押し潰された構造体がたまらぬ膨らみのなかで瓦礫をまき散らすところ、ワームは10数本の触腕を四方の壁面へと次々に叩きつける。そのしなやかにして強靭な挙動は、自らの身を都市の骨格へ縫い止めようとするものだった。
この異様きわまる光景は、鬼気迫る破壊の描写と、多量の岩片や砕けたガラスを地面に実際に突き刺していくことによって、それが幻視でも錯覚でもないという事実を、容赦なく群衆の目に突きつける。
なおも壁面のコンクリートがひび割れ、鋼材が悲鳴のように軋む音を響かせながら屈曲していく。眼球を欠いた頭部が、やがて街の対岸に突き立つブルジュ・ハリファを捉える。
その動きは理性を欠いた本能の――それゆえにかえって早急に導かれる帰結にほかならず、都市全体が、彼の次の1手を待ち構えるかのように、純粋な静止の感覚が一瞬、この世界を覆い尽くした。
次の瞬間、ワームは全身をバネのようにたわませ、大口を開く。咽喉から背部にかけて連なるヒダが無数に波打ち、肉厚な胴がうなじにかけて膨張していく。それ以外、すべての存在の息を詰まらせるほどの咆哮、あるいは嗚咽が地面を震わせ、牙の根本まで開かれた口腔の奥から、粘性を帯びた黄色の体液がおびたただしく飛び散った。
「……ギッ、シャァアアァーーーッ!!!」
そして、その開かれた咽喉の深奥から、数え切れぬ影が、一斉に解き放たれた。
シュゥゥゥーッ!
ジェットパックを背負った空挺兵たちは、高温、極彩色の排気をほとばしらせながら宙を駆け上がり、戦闘機はその刹那の包囲網を突き破って加速し、小型の支援機がそれに続いて編隊を成す。
――中でも異様な存在感を放っていたのは、その小型支援機だった。搭乗者はコックピットに腰かけるのではなく、厚い装甲キャノピーの裏側へと腹這いで潜り込み、腕と脚をガイドフレームに通して全身を固定する。操作は筋電センサーを介し、身体そのものを通じて行う。翼の生えた金属製のスリッパのような外観を持つこの機体は、翼長6mにも満たない。
そうした異形の航空機が夜の摩天楼を器用に縫い、複雑な隊列を編んで飛翔する様は、従来の飛行部隊の常識を根底から覆す光景だった。テラリアンの航空戦力は、堰を切った無数の蚊のように、砂塵とライトの海へ次々と躍り込んでいく。
……そして最後に、まるで吐瀉物の残滓の些細な1滴のように、ひときわ小さな影がワームの巨大な咽喉からこぼれ落ちた。
だが、その影は空気の流れを翼のようにまとい、大胆に――そして、あまりにも優雅な前宙で摩天楼の屋上へと着地する。
トッ。
人影――テラリアキングは、パラペットに古の船乗りのごとく片足をかけた。
右手はサングラスをかけた眼の上に翳し、濃密な夜景と騒然たる戦場を飄然と見下ろすその姿には、国家の軍事力を半ば私物化して振るう専制君主としての、隠しようもない余裕が滲んでいた。
背後には、顎を大きく開いたまま、粘液を滴らせるデスワームが鎮座している。体内からは、工場の稼働を思わせる轟音とともに、蒸気がまだほのかに噴かれ、その全容は、王の威光を示すためだけに存在する礎と化し、敬虔に佇んでいるかのようだ。
高所に立つテラリアキングの、リベットを打ち込んだレザージャケットの裾が、たくわえた長髭とともにビル風を孕み、静かになびく。その足元には、光彩に満ちた都市のパノラマが広がり、彼が放った航空部隊が乱舞しながらその奥深くまで浸透していく。
「どれ、オールラウンダーのご令嬢方はどう出るか――」
すべてを睥睨する男の口元に、愉悦のかすかな笑みが浮かんだ。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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