issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 02 07
それでもおせちは、最初あくまで冗談めかしてこう問い返してみせた。
「大丈夫?それ、アンリとジダンに負けない?」
ただその声音には、先ほどまでの警戒や冗談めかしさは薄れ、
むしろどこか乗り気ともとれる色が、無意識に浮かんでいた。
(……「何の話?」と思った人は、2006年ドイツW杯準々決勝、「フランス対ブラジル」を検索してみて!ロナウジーニョ、アドリアーノ、ロナウド、カカの4人組、“カルテット・マジコ”を擁する優勝候補ブラジルを、フランスのアンリとジダンが撃破した伝説の試合さ。ちなみにジダンが頭突きしたのはこの大会の決勝だよ!*PIKU)
「でも……いいかも。“魔法の4人組”って、そのまんまだし。ほかのより、ちょっとはピンときたって感じかな」
さなが微笑みながらそう言うと、陽の光を含んだ頬が甘い赤みを帯びる。
アシュリーは腕を組んだまま、ゆっくりと視線を空へと上げた。
「ああ、そうだな。この世界の大事な要素のうち半分からは採用されないなら、もう半分から持ってくればいい。私はそれ、好きだぞ」
(彼女にとっての“フィフティ・フィフティ”とは、音楽とサッカーのことだ)
風が校庭を抜け、制服の袖を揺らす。残る3人も、それぞれに迷いながらも、視線を交わした。
「……絶対いいって!これ、カルテット・マジコ!」
その瞬間を見逃さず、アシュリーはまるで勝利宣言のように声を張り上げる。
「……まだ、アイディア出しの途中でしょ?」
しかし、おせちは困惑したような苦笑を浮かべる。どうやら彼女は、最後まで場の“安全弁”として立ち回るつもりらしい。
「いや、もうこれしかないって。説明はできないけど、運命感じるんだよな~。
それに、今ここで決めないと、また誰かに聞かれて答えに困るぞ?――たぶん、次の休み時間に。さなも気に入ってんだろ?」
「う~ん……。もっとすごい案が出なければ、これでいいと思う」
「ウチも~……うん、もうちょっと粘ってもいいかなって」
さなとはちるは、素直にそう答えるが、その語尾にはどこか踏み切れぬ余白が残る。
その様子を「弱気」と受け取ったアシュリーは、やれやれと肩をすくめた。
「……わかってるか?こういうの、“アイディア出し”って言ってるあいだは、永遠に終わらないんだよ。
どっかで線引きしないと」
そして、そう言いながらスマホのトップ画面、その時刻表示を一瞥し、
ゆるやかに覚悟を固めるような足取りで、フェンス際へと歩いてゆく。
白い柵に手をかけ、熱のこもったまなざしで空の彼方を仰ぐ――“空を見上げる”という行為は、
アシュリーにとって、ときに鳥の本能にも似た衝動を伴うものだった。
……その朝、世界はまさに「秋うらら」の名にふさわしく、やわらかな陽光と、神の全能すら連想させるほどの欠け目なき温もりに包まれていた。
ポニーテールに縛った長い赤毛の少女が、猫のようになめらかに背を伸ばしてフェンスにもたれかかる、その姿を中心として、校舎の屋上には、“世はおしなべてこともなし”の風景が、淡く澄んだ色調のまま、どこまでも広がっている。
だがその完成された絵図は、3人の胸の奥に、むしろ名状しがたい落ち着かなさとして滞っていく。
それは、経験がそう告げていたからだ。
何も起きぬときこそ、アシュリーの落ち着きは、かえって不穏の兆しとなる。
だからこそ、3人は誰ひとり言葉を交わさず、
まるで水面下で手を取り合う共犯者のように、そっと意思をひとつにした。
「……なんだよその目?――」
訝しんだアシュリーがふと目線を返すと、フェンスの内側の広い空間に、妙な、一触即発の雰囲気が生まれる。
「――もしかしてお前ら、こういうときの私が独断専行するっていう、偏見に基づいて動こうとしたりしてないか?」
彼女は、やけに朗々とした、どのような後ろめたさもない口ぶりで、やさしく問いかけた。
「いやそんなこと……」
おせちは、咄嗟に目線を伏せて言葉を濁す。
「そうか、なら安心だな。…………ちなみに答えは当たりだッ!!」
そのひと言がすべての引き金となった。
アシュリーはフェンスにかけていた腕を引き戻すや否や、重力を振り払うような身ごなしで、屋上の柵を跳び越えた。
「!!」
その動作のさなか、細くしなった両脚――スニーカーのつま先が水平を向き、チェックスカートの裾が空気の流れで複雑に乱れる。
そして次の瞬間、制服の縁が赤い焰へと姿を変え、足元から巻き上がる熱流にあおられながら、炎が一気に彼女の全身を駆け巡った。
屋上付近の空気を全身ごとしたたかに打ちつける――その反動で跳ね上がったかのよう見えた炎の体は、校内に存在する棟々の屋根を、ひと通り舐め取っていく鮮やかな軌跡を打ち出し、まるでジェットの推進音のような轟きを撒き散らして、高度をまたたく間に引き上げていった。
炎の尾は澄みきった青空にいさましい軌跡を描きながら、雲を越え、そのはるか先へと爆進していく。
教室の窓辺にいた友人たち、グラウンドを歩いていた生徒たち、あるいは遠く小学部、中学部、
大学部のキャンパスを行き交う者までもが、その誇大的な音に気づき、一斉に顔を上げる。
おどろきや歓声、指さし、スマホを掲げての撮影、手を振って送り出す仕草が敷地内に連鎖し、誰もが天頂を縦断するたったひとつの点――ホットショットの姿を目で追った。
……まさに青天の霹靂と呼ぶべき離陸劇である。それから間もない1年生の学棟では、アシュリーの早退を報告しに行ったおせちが、
逆に彼女のクラス担任から「アシュリーが遅刻の連絡を寄越してきた」と告げられ、思わず立ち止まる――そんな一幕もあった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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