issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 02 06
そのひと言が落ちた瞬間、場の空気に、後には引けぬ決断の雰囲気がたしかに加わる。
屋上のフェンス越しに広がる空――朝という時間帯のありがたい温もりを、押しつけがましいほどに施してきたあの空は、以後、ばかによそよそしい態度を露わにした。
彼女たちの小さな肩に、これから選ぶべき言葉と未来の、そのすべての重みを委ねては助けもせず、ただ、青みの最も濃い部分へと、心なし色彩の潮を引いてしまったかのように思われる世界の果てから、その選択の行方をじっと見つめているだけになったのである。
4人のあいだには、言葉にされぬ昂ぶりと、どこか浮足立つような期待とが交差する。
「ウチも……それ、考えてたよ」
はちるがぽつりと口にし、さなも静かに同調する。
「正直、こんなにいろんな人に聞かれるとは思わなかった」
おせちの顔に、さっと陰が差す。
「だよな」
アシュリーが苦笑を浮かべながら応じた。
「でも、どういう基準で決めればいんだろ……」
さなは胸元のデッキケースを、まるでロザリオのように無意識に撫でながら、戸惑いを口ににじませる。
「たとえば、四字熟語とか?」
はちるがやや茶化すように言うと、
「いや、それは国語の成績が上がるだけだろ――」
アシュリーが即座にツッコミを入れ、場の空気がわずかに緩んだ。
「……まあ、いろいろあるだろ。それぞれ考えてきたアイディア。
全員、ここ数日で何度も聞かれて、そのたびにちょっとずつプレッシャー感じてたはずだし」
そしてそう言葉を継ぐと、
はちるは、
「やっぱり何かの名前に寄せるとか?それとも英語でいく?」
少し明るく流れを変える。
「かっこよければ、何でもいんじゃない?あとは、なるべく人とかぶらないやつ!」
さながおどけたように手を挙げてみせた。
「……じゃあ順番に案を出してこう。採用・不採用、好き勝手に投げ合ってさ」
おせちがまとめると、指先で軽く空中に円を描いた。
「……吉濱ユナイテッドFC!」
最初に名乗りを上げたのは、やはりアシュリーだった。
朝市の競りのような張りのある声で、堂々とその名を叩きつける。
「なし!」
するとおせちが即断する。
「ナシ!」
はちるも腕で大きくバツ印を作る。
「それ、よわそ……。J3からJFLに即降格しそ……」
さなは眉をひそめ、さらに追い打ちをかけた。
その評判の悪さに、アシュリーはさすがに顔をしかめる。
ついで、はちるがパッと手を挙げ、無邪気な声を弾ませた。
「ペパロニクアットロがいいな!4種類のチーズって意味で!」
「あっ、それってエルレガーデンじゃん……。なら私はバンプ・オブ・チキン!これも4人組!」
さなが即座に参戦し、指で“4”のサインを作って見せる。
「音楽で攻めるの?」
と大げさに驚きながら、はちるもさなの動きを真似して、両手で“4”の形を作った。
「……4人組なら、マーベレッツでどうだ?」
アシュリーが便乗すると、
「それ、途中で脱退者出るやつだからダメ」
おせちは容赦なく切り落とす。
「じゃあ、何ならアリなんだよ?」
アシュリーのツッコミに、
おせちは妙に真顔で1拍置きながら、
「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」
とだけ抑揚のない早口で言い切る。
その瞬間、アシュリーが噴き出し、首を横に振った。
「長すぎ!」
さなも即座に声を上げる。
「それならママの名前、オノ・ヨーコにしなきゃ!」
はちるがぼそりと続け、みんなが一瞬笑いに包まれる。
「じゃあ……デズリー!」
おせちは淡々と新しい案を出す。
「ならレス・バクスターは?」
はちるも負けじと提案。
「4ノンブロンズ!」
さなが声を張れば、
「ブロンドはいるでしょ!」
おせちは自分のカボチャ頭を指さした。
「ゲッツ・ジルベルト!」
アシュリーが畳みかける。
「そのへん、もう完全にチーム名っていうより個人名ぢゃん!」
さなが呆れたように突っ込んだ。
会話の熱量はゆっくりと上がっていく。弱火の笑いが、中火の冗談へと変わり、
いつしか話題は音楽グループ名を挙げる即興ゲームへと変貌していた。
「……うーん、でもやっぱり音楽から離れたほうがよくない?――」
しかしある時、おせちはふと空を仰ぎながら、冷静に言葉を挟む。
「――だって、もし有名になったときに、元ネタの人に会ったらどうするの?気まずすぎでしょ」
それでアシュリーは虚をつかれるも、新たな案をすかさず投げ込む。
「よし、じゃあ“アシュリーヨシハマエクスペリエンス”で決まりだ!」
「それジミヘンドリックスじゃん!」
おせちが間髪入れずにツッコむ。
「う~ん、じゃっ、ティーンエイジミュータントマジシャンガールズ!」
しかし、なおもアシュリーは声を張り上げた。
「あっ悪くはない響き!……いや、悪くはないんだけどね。でもそれ、なんだかすごくまずい感じがするんだ……!」
おせちは名の出典すらもよくわからないまま、なぜか強い危機感を、緑色が自然と浮かぶその不可思議な文字列に覚え、めずらしく慌てた調子で却下する。
「……グループイノウ?」
その後さなが、唐突にアイディア出しを再開し、
「う~ん……」
「まあ……方向性はそうだよな、異能者の4人組。音楽だけど」
おせちとアシュリーは声を重ねる。
そのとき――場の空気がふっと凪いだ。
そして――
「……じゃあ、じゃあさっ!カルテット・マジコ!」
はちるが小さく跳ねるようにして、無邪気な声とともに、手を高く挙げた。
「――!」
その、普段なら軽く受け流してしまいそうな響きが、この朝はなぜか4人の心に柔らかく着地する。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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