表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

 結局根負けした私は、セリネリーヴェに急き立てられるようにして裏庭に出た。

 彼女の手が導く先には、息吹いたばかりのトメロの小さな双葉があった。



 私が光を失ったのは、八年前。それは、今のセリネリーヴェと変わらぬ年の頃だった。

 朝と夜との境目すらないこの暗がりにも、もはや慣れ親しんで久しい。


 このまま、ひとりここで朽ちていく。

 そう思っていたのに──


《トメロの み おいしい?》


「食べたことがないのか?」


《ない》


「そうだな……少し酸味はあるが、美味いと思うぞ」


 その言葉は、半分嘘だ。



 光を失う前、まだ城に暮らしていた頃の私は、食卓にトメロを使った料理が並んだ日は震えを悟られぬように振る舞うことが精一杯だった。


 トメロの独特の赤みは色の、そして酸味は味の違和感を消してしまう。


「残さずお上がりなさい」


 母がそう私に微笑みかける日、その皿には、たいてい何かが混ぜられていた。



 そうして──結果としてこの目である。


 世俗を離れて八年。

 様々なものを手放し、忘れてきたというのに、本当に忘れたいことからは、こうして今なお逃れられずにいる。皮肉なことだ。


 そんな私の情け無い心のうちなど知る由もなく、傍らでセリネリーヴェは「ふふ……」と吐息だけで笑った。

 そして、私の手に被せるように、その手がトメロの双葉を優しく撫でた。


《みがなったら はんぶんこ しよ》


「半分こ?」


《いっしょに かじる》


「生で……食える……のか?」


《じゃあ おりょうり しよ》

《いっしょに》


 再び「ふふ……」と、まるで空気を解くように吐息で笑うと


《みず やる》

《じょうろ とってくる》


 パッと立ち上がって駆け出した。

 まったく忙しない娘である。


 少し離れた井戸で水を汲む音を聞きながら、私は、まだぼんやりと温かい自らの左手をグッと握った。

 彼女がいつも、声を書きつける左手を。


 

 セリネリーヴェは知る由もない。


《いっしょに》


 彼女にとっては何気ないその小さな約束に、私のこの役に立たぬ目が、何を見たのかを。



×××



 それは、真っ黒な世界に差し込んだ、ただ一条の光だった。


お読みくださってありがとうございます。


あるひ家鴨と申します。

こちらは、下のリンクにありますとおりカクヨムに置いている長編の関連作となります。

正確にはこの二人のこうした関係──もっと正確には年下少女の天然な強さと優しさに「私」が助かっていく話が書きたくて膨らませたのが、リンク先長編となります。


いずれ、なろうでも連載を…とは考えておりつつ…

もしご興味を持っていただけた方は、ぜひ覗いてみていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作はカクヨム連載中の
『神様の弔い』と世界を同じくする関連作です。
この二人の物語の始まり、そしてその先を知りたい方は
こちらから会いに来てください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ