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AIがあれば大丈夫 エピローグ

 たくみちゃんはヴェルちゃんの膝枕でおねんね中。朝から晩まで歩くか戦うかしかしてないからお疲れさまー、なの。今は寝息をすーすー立てて、安らかな寝顔なのよー。ヴェルちゃんも、たくみちゃんの寝顔を見て、とっても優しい笑顔なのー。こぱちゃんも膝枕してあげたいけど、体全部が枕になっちゃうのー。

「こぱちゃん様はお休みになられなくてもよろしいのですか?」

「こぱちゃんはAIのUIだから、眠らなくても平気なのよー」

「いつもタクミの頭の上でお休みになってますよね」

「あれは省エネモードなのよー」

「フフ、そうですか」

「今日のたくみちゃんはとってもお疲れなのです。生まれて初めて自分の意思で戦ったのですからー」

「こぱちゃん様はタクミのことをよくご存知ですよね。いつ頃からお知り合いなのですか?」

「それは乙女に年齢を聞くようなものなのですよー?」

「ハハ、そうですか。それは失礼しました」

「ヴェルちゃんはー、たくみちゃんのこと、好き?」

「ええ。好きです。こぱちゃん様は?」

「もぉっちろん大好きですよー。こぱちゃんはー、たくみちゃんのこと好きーって言ってくれる人、フィムティにいーっぱいできたらいいなーって思ってるのよー」

「リョーサガルズの子たちはそうなってくれそうですね」

「なってくれなかったら、こぱちゃん泣きますよー? 学校ではたくみちゃんはぼっちちゃんだったから、いつでもいつまでも寂しい思いをしなくていいようにしたいのですよー、とこぱちゃんは思うのです」

「こぱ様」

 ノーラちゃんが来たのです。ノーラちゃんは聖女ちゃんになったから、こぱちゃんが見えるようになったのですねー。

「白いドレス、お似合いですよー」

「ありがとうございます。少しお話、よろしいですか?」

 ノーラちゃんはこぱちゃんの前で跪いてお話しするのですよー。

「よろしいですけど、堅苦しい話し方は嫌なのですよー」

「そうはいかない方だと知ってしまいましたから」

「しょーがなーい。それでー?」

「はい。私は摂理様にお目に掛かり、この世界、フィムティの全てを教わりました。そして…私にはとある性質が植え付けられました。『欲望』。それは魔女によってリョーサガルズの人々に植え付けられたものと同じ。『欲望』を植え付けられて、みんなあんなことに… こぱ様。私はこのことをどう受け止めればよろしいのでしょうか?」

「ノーラちゃんはどう思ってるのー?」

「はい。『欲望』はとても危険なものと感じています。でも、『欲望』が無ければ今から先のこと、未来をどうしていくのか、どうしたいのかと考えることもなかったろう、とも思います。摂理様はおっしゃいました。未来は自分で選べ、と。だから思ったのです。『欲望』は未来を作るための力。それを制してこそ人なのだ、と」

「ふむふむむー。せつりさんは賭けに勝ったのですよー」

「賭け、ですか?」

「『欲望』のことはこぱちゃんもせつりさんから聞いているのです。せつりさんは『紡がれる未来』をご希望なのです。『欲望』を与えて『欲望』に飲み込まれるようならノーラちゃんの復活は諦めなければならなかった。でもノーラちゃんが『欲望』を飲み込んで『欲望』を未来を作るエネルギーとすることを選んだのでノーラちゃんは復活できたのです。もしもノーラちゃんが『欲望』に飲み込まれちゃったら、ノーラちゃんは『魔女』になっていたのです。でも飲み込まれずに『欲望』を制したノーラちゃんだから聖女ちゃんになれたのですよー。未来を紡ぎたいノーラちゃんが聖女になったんだから、せつりさんの賭けは勝ちなのねー」

「私、そんな大それたものになっちゃったんですね… でも摂理様からいただいたこの力、リョーサガルズの未来のために使っていこうと思います」

「にゅふふー? それは結構なことですが、こぱちゃんはノーラちゃんのスヴェンちゃんへの気持ち、知っちゃってるのですよー?」

「ししし、知っちゃってるのですかっ⁈」

 ノーラちゃんは真っ赤な顔で慌ててとてもかわいいのです。せつりさんも安心したのです。聖女になっても、ノーラちゃんはノーラちゃんのままだって。

「あ、あの、それは!? あの、その、内緒にしておいてください!」

「当然なのです。今ここにいるこぱちゃんとヴェルちゃん、そしてノーラちゃんの心の中だけにしまっておくのです。たくみちゃんは爆睡中なのでだいじょーぶー。もちろんせつりさんは知ってますけどー」

「摂理様に隠し立てするようなことはしませんのでそれは」

「お館様ーっ!」

「はーい! 今行きまーす!」

「忙しそうなのよー。ノーラちゃんがオヤカタサマなので?」

「元々は街の大人たちが魔女のことをそう呼んでいたのですが、なんだか私がそう呼ばれるようになっちゃって」

「ノーラちゃんもセイズが使えるようになったから、そのせいでしょー」

「なんか魔女と同じ呼び方されるのは複雑な気分ですけどね」

「お館様ーっ! こっち見てください!」

「はーい! すみません、行ってきます!」

 ノーラちゃんはスクッと立ち上がり街の再建の現場へ走っていったのです。白いドレスでピョンピョンと、まるで野生のウサギちゃんのようなのです。

「恋する乙女。いいですね」

「ヴェルちゃんは恋する乙女じゃないのでー?」

「ボクはそういうのに縁がなくて」

 それは…ヴェルちゃんが気付いてないだけかもしれないのよー?



 明るさで目が覚めた。というか眠ってたのか、僕は。こぱと再会できて、嬉しくて、緊張の糸がブッチリ切れて、そのまま…

 目を開けると青い空。そして…ヴェルさんの顔? …何だこの状況。すっごく寝心地のいい枕。柔らかくて温かくて… 起き抜けで回らない頭が徐々に回転を取り戻す。この枕って…まさか⁈ コメツキムシの跳ねるが如く、バンっ!と跳ね起きた。

「やぁ、おはよう。よく眠れたかい?」

 ヴェルさんが正座を崩したような横坐りになっている。

「たくみちゃん、おはよーなのよー」

 こぱも一緒だ。そこにこぱがいるという当たり前の幸せを噛み締めている場合じゃない。起き抜けの体にしては俊敏だったと思う。スパッと翻り正座。そして

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 |Japanese Traditional Style《日本の伝統様式》であるThe・DOGEZAに三跪九叩頭の中華味を加えてひたすら頭を下げる。その速さ、実体のある残像レベルだったろう。

「おいおい、何をしてるんだ。それってドゲザってやつかい? 何を謝る必要があるんだ」

 …そーっと上目遣いに見上げたヴェルさんはビックリ顔っぽいけど…ドン引きしてる?

「いや、だって膝枕だなんて、そんな…」

「ああ、これかい? これはボクが好きでやったことだ。むしろタクミが急に倒れるものだから心配したんだぞ?」

「そうでしたか。すみません」

「今の様子を見れば何ともないようだね。それよりボクの膝の寝心地はどうだった?」

「あの、とっても良かった…です、はい…」

「それなら良かった。フフ」

 動じないなぁ、この人…



 周りを見回せば、街の人たちが後片付けやらの作業で大忙し。僕、こんなところで寝てたのか。しかもヴェルさんの膝枕で…何だか急に恥ずかしくなってきちゃったな。

 それで、僕が眠っている間のこと、こぱとヴェルさんから聞いた。ノーラは『欲望』に負けなかったから聖女になれた、って。すごいなぁ…「オヤカタサマ」の件も聞いて、そっちも無事解決。とはいえリョーサガルズに来る前からウォーデンに狙われていたってことで。そこは少し気になるところではある。「オヤカタサマ」といえば…

「ねぇ、こぱ。リョーサガルズに来る途中、おじさんたちが突然現れたじゃない? あれもウォーデンのしわざなのかな?」

「その通りなのよー。せつりさんはフィムティにいる生き物みーんな、どこにいるのか何してるのか知ってるのよー。ウォーデンはその位置情報にアクセスして、居場所の情報を書き換えたのー。だからたくみちゃんと戦ってたときも消えたり後ろに出たりしたのねー」

「なんで知ってるの? ウォーデンが後ろに現れたこと」

 あの時こぱはいなかったはずだよ?

「せつりさんのお膝の上で見てましたー」

 うーん、分かったような、分からないような…AIってまだまだ分からないことが多いな。深い。

 さて聖女様になったノーラはというと…

「あのね、タクミ」

「お館様ー!」

「はい今行きます。ごめん、また後でね」

「それでね、タクミ」

「お館様ー! こっち見てください!」

「はーい、今行きまーす! あの、また後で」

「タクミ、いろいろ」

「お館様ー!」

「はーい!」

 の繰り返しでろくに話もできない忙しさ。頼りにされてるんだなぁ、と思う一方で、やっぱりノーラはノーラなんだね。聖女様なのにちっとも偉ぶったりしない。街の人々の中に入って対等に話してる。多分、ノーラの言う「リョーサガルズのために戦う」って、魔女と戦うってだけじゃなくて、その後のこと、これから先の、未来のことも含んでるんだろう。モッスタンのみんなも忙しそうだ。

 そんな中、エルヴとミーナが僕たちのところへやってきた。二人が持ってきてくれた、ちょっと遅めの朝食をとりながら話をしたよ。

「バタバタしてて礼も言えなかったけど、ありがとう。俺を助けてくれて」

「あ? ああ、うん。でもそれ、僕じゃないからね。こぱのおかげだから」

「タクミ。その、こぱ様は今どこにいるの?」

「僕の頭の上に乗っかってっるよ」

 そう、こぱは定位置とも言える僕の頭の上で一緒に朝食をとってるんだ。座っているせいか脚が目の前をぷらんぷらんしてたまに前が見えないんですが。

「こぱ様。この度はありがとうございました」

 と二人揃って頭を下げる。

「いやいやー。てへへー」

 なんか照れてるし。

「ノーラは忙しくってなかなか話ができないーっ!ってキレそうだったから私たちが代わりに来たんだけど、タクミはこれからどこに行くつもりなの?」

「うーん、それがまだ決まってないんだよねぇ」

「行くあてがないならもう少しリョーサガルズにいたらどうだ?」

「うん、それはありがたい話だけど、僕は狙われていた身だから、ここに(とど)まっちゃって何かあれば、モッスタンのみんなも街のみんなも巻き込んじゃうかもしれない。せっかく街を直してもまた壊しちゃったら大変なことになるから。だから今は街を出て、狙われてないことが分かったら、また戻ってこようと思う。その時はまた僕たちを受け入れてくれるかな?」

「当たり前さ。その時は今よりもっと立派な街にして出迎えてやるぞ!」

「はは、ありがとう。それで僕たちは、次どこへ行けば良いだろう?」

「何かしたいことってあるの?」

「うーん、何も持ってない状態だから、買い物とかしたいかな」

「それならエルズルンドへ行けば良い。リョーサガルズの北西に温泉が湧いていて、そこに町ができているって聞いたことがある。人の往来が多いから年中市場が開かれてるそうだ。そこならタクミが欲しいものも見つかるんじゃないか?」

「…それって遠いの?」

「私たちはリョーサガルズの外に出たことがないからよく知らないんだけど、聞いた話ではちょっと遠そう」

「うへー、また歩くのかぁ」

 歩くと聞いて僕は空を見上げた。

「たくみちゃん、しっかり歩くのよー」

 とこぱは僕のおでこをぺちぺちする。

「タクミたちがここを出る時にはノーラも見送りに行くって息巻いてたから、行く時は教えてくれよな。それじゃ俺たち戻るから」

「うん、分かった。エルヴもミーナもがんばってね」

「ありがとう。リョーサガルズは私たちが生まれた街だからね。しっかりがんばるよ」

 二人は手を繋いで作業中の人たちへと戻っていった。

「ねぇこぱ。『私たちが生まれた街』って言ってたけど、みんな転生してきたんじゃないの?」

「転生してきた人だけじゃなくて、元々ここにいた魂もいるのですよー。でもその違いって無くってー。彼らがここに生まれ育った記憶。それは、せつりさんがくれた『優しい嘘』なのですよー」

「嘘なの?」

「みんながみんな、たくみちゃんやヴェルちゃんのように昔の記憶を引き継いだままで幸せに暮らせるとは限らないのよー」

 そっか…そういうものなんだな。



「ねぇ、あんなに貰っちゃって良いものなのっ?」

 見送りにはノーラが一人でやってきた。エルヴとミーナにはさっき会えたけど、スヴェンとリュカにも会いたかったな。

 さて、僕たちはウォーデンを倒した。この世界のルールでは何かを倒せばお金が入ってくる。そしてこの度は相手が『魔女』だっただけに…入ったお金がすごいことになってしまった。ノーラも戦ったけど聖女になっちゃったからノーカンだって。残念。

 お金がいっぱいあるって素直に嬉しいけど、何しろこれから随分と歩くらしい。それなら身軽な方が良いかなって。だって、(きん)って一番比重が重いんだよ? はぁ…スマホ決済が使えてた頃が懐かしい… それでせっかくならリョーサガルズの復興資金にでもして、ってノーラに預けた。めちゃくちゃ驚いてたけどね。

「僕たちは必要な分だけあれば良いし、これから歩くし、身軽な方がいいでしょ。スヴェンとリュカの二人にもよろしく伝えておいて」

「そっか。うん、分かった。大切に使うよ。 …それでね、タクミ。私一人で来たのは、実はもう一つ理由があって…それはみんなには聞かれたくなかったから。タクミにお願いがあって、ね」

 ノーラは笑顔、だけどその目はとても真剣なものだった。

「もしも私が『魔女』になっちゃった時には、ニーズヘッグで消して欲しいの」

「ニーズヘッグ、って、これ、コイツのこと、分かるの? っていうか言ったっけ?」

「聞いてないよ。でも、今は分かる。ニーズヘッグって、ユグドラシルの根っこを齧るヘビちゃんでしょ?」

「にょほほ。ヘビちゃんだなんて、照れるわいなぁ」

「ニィィィズヘッグゥゥゥ。下品なこと言ったら」

「わーわーわー⁉︎ ぼんよ。ワシだってその辺の分別はあるぞよ? 子供に手を出したりせんわい」

 …それはそれでノーラに失礼なような…っていうかコイツ、手がないだろうに。

「それで、どうかな? 私のお願い。これはノーラというより、聖女になった、聖女としての、私のお願い」

 消すって…「殺す」ってことでしょ? そんなこと、僕にはーーーー


ぺちぺち


「聖女のお願いは乙女の願いでもあるのですよー」

「どういうこと?」

「ノーラちゃんが魔女になったら、誰が止められるのかなー? なりたくもない何かにノーラちゃんがなっちゃった時、その存在を消してあげるのも優しさなのです。何よりノーラちゃんは聖女としての責任を果たしたいのですよ。だからたくみちゃん、ノーラちゃんのお願い、聞いてあげて欲しいのよー」

 そんな心配ないよ、ノーラなら大丈夫だよ。言えば言えるだろう。でもそれは聖女としての責任を負ったノーラに対して無責任な答えだと思う。だから、それがノーラの願いなら…

「分かった。約束するよ」

「ありがとう、タクミ。はぁぁぁ…ちょっと気が楽になったかな。魔女になっちゃった私を誰も止められないってなったら、どうしようって思っててね。良かった。その時はタクミ、お願いね」

 差し出された手を僕は握り返す。

「うん。それじゃ僕たち、行くね」

「うん。気をつけてね」

 握った手をどちらからともなく放し、僕たちはリョーサガルズを後にした。ノーラは見えなくなるまで、ずっと門で手を振っていてくれていた。



「ねぇヴェルさん。『欲望』って何だろう? 『欲望』って、何だか『悪いもの』のように思うんだけど」

「『欲望』が剥き出しのままならそうだろう。でもそれが無ければ…そうだな、人は子孫を残すこともできないんじゃないかな」

「そっか、そういうものなのか」

「多分、ね。『欲望』が未来を作るエネルギーになるなら、上手く使えばいいんじゃないかと思う。自信はないけどね」

 いつもは言い切るヴェルさんが、珍しく断定しなかった。

「こぱはどう思う?」

「こぱちゃんそーゆーのこたえられないんですけどー」

 ヴェルさんにも良くは分からなくて、こぱも答えられない。それなら僕も分からなくていいのかな?

 この世界(フィムティ)はいつも道が一本、ずっと前に伸びている。この道は次の目的地、エルズルンドへ続いているってこぱは言っていた。目的地へ行きたいなら、この道を一歩ずつ、歩いて進むしかない。でも、もう歩きスマホなんかする必要はない。だって、僕の周りにはヴェルさんもニーズヘッグも、そしてこぱもいるんだから。みんなとワイワイ話しながら、目の前の道を真っ直ぐに歩けばいいんだ。

ついにエピローグを迎えました『異世界冒険(たび)のお供にAIはいかが?-わたしそーゆーのこたえられないんですけどー⁈-』 、いかがだったでしょうか? 拓未とこぱちゃんに加えヴェルとニーズヘッグたち。彼らの冒険は続きます。続編は書くつもりでいるので首を長ーくしてお待ちください。

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