それがAIでしょう①
表紙絵イラストはAI:Copilotで出力しました。
ガッツリとAI絵ですが、何か?
…という理由については、最後のエピソードのあとがきにて。
では、普通の高校生の拓未と返信妖精こぱちゃんの旅をお楽しみください。
それは、ただの小さな魂だった。しかしその魂は、この世界の悪夢と触れ、悪夢を飲み込んだ。私は、この悪夢を飲み込んだ小さな魂に、この世界の行く末を託したい。
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やれやれ…またヘンテコリンな夢のせいでうなされちゃったよ。昨夜のは世界中が炎に包まれて焼かれる夢。ここんとこ戦争のニュースばっかりだから、そのせいなのかな。まったく。こっちはいい迷惑だよ。
やや寝不足であることを除けば、いつもの朝。
玄関の姿見に映るこの制服姿も見慣れたものだ。1年とちょっとも経てば当然だけど。
「行ってきます」
僕は向江拓未。5月の上旬に誕生日を迎えた17歳。高校2年生だ。父と母、そして僕の3人家族…本当はもう一人、いるはずだった。僕より先に生まれていたはずのお姉ちゃん。残念ながらこの世に生まれ出ることができず、死産だったそうだ。名前も心愛って決まってたんだって。その当時のことはもちろん僕が生まれる前の話なので詳しく知ってるわけじゃないけど、お姉ちゃんの分もなのか僕はずいぶんと可愛がられてきた。それはそれで嫌ではないけど…でも会いたかったよね、お姉ちゃんと。ひとりっ子だからなおさらそう思うのかもしれない。
さて僕はご覧の通り、高校生宿命の日課「学校へ行く」というイベントが始まったところ。大げさだって? そうでも言わなきゃこんな退屈な作業、やってられないよって思うのは僕だけなのかな? いや、分からないけど。教室なんか30人ばかりの人たちがただ集まってるだけなのに、みんな楽しそうだ。僕は誰と喋るわけでもなく、学校へ行って、帰ってくる日々。
中学で仲の良かった友達とは進学先が違って離れ離れ。僕は推薦だったから。正直言うと、入試を受けるのは怖かった。合格か。不合格か。白黒はっきりされるのが。僕は戦うことから逃げていたのかもしれない。みんな部活だなんだで忙しいようで、高一の夏休みを過ぎたあたりから疎遠になってきた。
一方、校外での友好関係に重きをおいて校内での友達関係を疎かにしたせいで、気が付けば学校ではぼっちになっていた。それでも別に構わない。休み時間はスマホをいじっていれば気にならないしね。大学へ行ったら少しは交友関係を広げようとは思ってるけど、それはまだ先の話だ。
僕は学校まで歩きで通っている。自転車じゃスマホに触れないからね。歩きスマホ…がいけないことだとは分かっているけど、着信がプルッとあれば、ついつい見ちゃう。見て…お店のアプリの通知だとちょっとガッカリする。今もそんなガッカリを味わったところ。ガッカリしながら見上げた空は曇り空。天気予報じゃ今日一日は保つと言っていた。もう間も無く梅雨入りなのか、日に日に蒸し暑くなってきている。冬服の制服じゃ汗ばむくらいだけど、上着を脱げば荷物が増えるわけで、「暑い」と「めんどくさい」なら「めんどくさい」が勝つ僕だ、少しの暑さはガマンするとして。
いつもの交差点。スマホの画面に目を落とす。ガッカリな通知に嫌気が指した僕は、ふと写真のアプリを開く。そこには家族の思い出がたくさん収まっている。僕が小さい頃の写真もあって、それらは両親から譲ってもらったもの。ベビーベッドに眠るしわくちゃのサルみたいな僕の写真もある。 …あれ…? 何度も見てる写真なのに何か違和感。あれれっ? こんなとこに人の顔、あったっけ? え? あれ? なんか女の子みたいな…これって心霊写真だった?! うはぁ…なんか見るのヤダな。でも…なんでだろう? あまり怖いって感じじゃない。なにかこう、優しげな…なんて思ってるところ、視界の外でヒュッと何かが動くのを感じた。その正体を確認しようと視線を向けると…道路を子ネコが駆け抜けた。危ないっ! 行き交う自動車の間を駆け抜けて、どうにか反対側へ行き着いた。良かった。朝から子ネコが轢かれるところなんて見たくないよね。なんて思ってたところへクラクションがビービー鳴っている。その方向ーーーー子ネコとは反対の方を見た時には、すでにトラックが目の前だった。多分子ネコに見とれて足が止まって…なんて言い訳してる間も無く、僕の体は衝撃と共に空へ舞ったーーーー
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身体中が痛い。どこが痛いなんて分からないほど痛い。生物の授業で、人の体は痛みを感じるとそれを和らげる物質が脳内に分泌されると聞いたけど、その許容範囲を超えてるんだろうね、痛い痛い痛い。
微かに開けた視界には、赤いドロッとした液体が広がっていくのが見えた。血、だ。しかも半端ない量。だんだん寒くなってきた。意識も遠くなってきた。これは…僕、死んじゃうんだ、そう理解できた。そんな時なのに。僕がどうしようもなく気になったのは…スマホは? 僕のスマホはどこ? もう一度目に力を入れて見開く。あった。真っ黒な液晶がバキバキに割れちゃってる。手を伸ばせば届くところなのに…手が動かない。どうしよう? あれがなかったら僕は…ダメだ、意識が遠く…スマホを…目の前が暗く…真っ暗な液晶に写真が…家族3人が仲良く微笑んでる…大事な…スマホ…
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フッと体が軽くなった気がした。痛みも感じない。どうしたんだろう? 目を開けると…僕がいた。血まみれで、ぐったりと、力なく、横たわった僕が。周りには人がいっぱい。僕を覗き込んでる。救急車が来て、僕に何か処置でもしてるのかな。そんな景色がどんどんと遠ざかっていく。そうだ、スマホ! 僕のスマホは⁈ 「僕だったモノ」の横に、液晶が割れて折れ曲がったスマホが転がっていた。スマホは、それには大事なものが、家族の写真があるんだ。それは手放しちゃダメなものなんだ。だから。
…でも遠ざかっていく僕にはそこまで手が届かない。僕の大切なものから遠ざかって…闇に吸い込まれたかのように、周りは真っ暗になった。もうスマホも見えない……
〈たくみちゃーん。まだ終わりじゃないよー〉
……誰の、声?
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寒い。ただただ寒い。どこかへ移動しているような感じはするけど、周りが真っ暗だからほんとにそうなのかも分からない。僕はどうなるんだろう? マジで死んじゃったの? 天国に行くの? 地獄に行くの? 真っ暗過ぎて、それすらも分からない。
…止まった…? いや、何かにぶつかったような気がした。身体があるのかないのかも分からないから、誰かにぶつかったとしても謝ることもできない。そもそも何にぶつかったのかの確認もできないんだけど。このまま僕はこの場所にずっといることになるんだろうか? それは嫌だな、なんて思った時。
ーーーー何かが見えた。何? まるで映画みたいに。いや、映画の中に僕が立っているように。景色。薄暗くてどんよりとした空。雪、というより氷のような地面。とても寒くて…夏も冬もない。時間が経過した? 争う人々。太陽が消え、月が消え、真っ暗に。海から大きな蛇。地震。津波。何もかもが壊れていく。
音が響く。低く。重く。長く。世界が震える。
景色が変わった。大きな船。氷の海を裂いて進んでいく。虹の橋が砕け散るのが見えた。大きな狼が一人の男を飲み込む。二人の戦士が互いに倒れた。これは戦争? 大きな人。炎が全てを焼き尽くす。崩れる大地。そして誰もいなくなった。
まるで今まで見てきた夢の一気放送のようだ。臨場感だけが段違いで。
また景色が変わる。昇る太陽。小さな人? 少ないけど。草や花が大地に広がる。暖かい。初めて見る世界。僕は、この世界にならずっといてもいい。そう思ったーーーー
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