第1話:転生、そしてミミック
目を開けると、視界は暗闇に包まれていた。
(……あれ? 俺、たしか深夜残業の帰りに車に轢かれて……)
ぼんやりとした意識の中で、最後の記憶をたどる。たしかに俺は死んだ。では、ここは?
ふと、自分の体が異様に軽いことに気づく。手を動かそうとしても、腕がない。足を動かそうとしても、違和感しかない。いや、それ以前に、俺の体はどうなっている?
(まさか……これって、異世界転生ってやつか!?)
最近流行りのライトノベルのような展開に思わず興奮しかけたが、次の瞬間、さらに驚くべき事実に気づく。
(な、なんだこの体……! 箱? いや、宝箱!?)
鏡がないので詳しくはわからないが、どうやら俺は「ミミック」という魔物に転生したらしい。ゲームやファンタジー作品ではよく見かける、宝箱のふりをして冒険者を襲うモンスターだ。
(よりによってミミックかよ……)
スライムやゴブリンならまだしも、ミミックは決して強い魔物ではない。むしろ動きが制限される分、不利なことが多い。しかも今の俺は、まったくスキルもなければ攻撃手段もない。完全に最弱の存在だ。
そんな俺の思考を遮るように、ギシギシと床が軋む音が聞こえた。
(やばい、誰か来る!?)
俺は咄嗟に息をひそめる……というか、そもそも息をしていない。どうやらミミックには呼吸の概念すらないらしい。
足音が近づき、やがて俺の前で止まった。剣の鞘が擦れる音がする。どうやら冒険者のようだ。
「お、宝箱があるぞ!」
(やめろ! 開けるな! 絶対に開けるな!)
心の中で必死に叫ぶが、当然ながら相手には伝わらない。次の瞬間──
「えっ? なんだこれ、空っぽ?」
幸い、俺の中には何も入っていなかったようで、冒険者は不満げな声を漏らした。しかし、もしこのまま何もできなければ、いずれ本当に倒されるだけの存在になってしまう。
(生き残るために、何か方法を考えないと……!)
俺はこの異世界で、最弱のミミックとして生き延びるための戦略を練り始めた──。