双子のパンダの黒白のチョコレート
この作品は『双子の白熊猫のきもち』https://ncode.syosetu.com/n6239hx/の二次創作です。作者の歌川 詩季様から許可を得ています。
なお、作中のイラストはすべて歌川 詩季様が制作されたものです。
バレンタインデーに友チョコを渡したい妹パンダ。
一度作ったことがあるから大丈夫、と作り始めますが……。
「いってらっしゃ〜い」
白パンダで上機嫌なあたし、不思議そうに見るお兄ちゃんを見送って、急いで準備をする。
今日はお兄ちゃんがおでかけしてるうちに、バレンタインにみんなに渡すチョコを作るんだよ!
お料理は全然なあたしだけど、チョコレートはこの間新しくできたお友達に教えてもらって一緒に作ったからね。ひとりでも大丈夫。
バレンタインって、友達とかにもいつもありがとうって渡していいみたいだから。お兄ちゃんと甲斐犬のカイくんとスコティッシュフォールドのスーちゃんとプラチナキツネのプッチちゃんに渡したくて。
すぐに黒パンダになっちゃうあたしだけど。みんなのおかげで、少しだけがんばれるようになった。
だからみんなに、普段はなかなか言えないありがとうを言いたいんだよ。
双子のパンダのあたしとお兄ちゃん。
見た目は普通のパンダだけど、気持ちで色が変わっちゃう。
喜んだり嬉しいときは白パンダ、落ち込んだり悲しいときは黒パンダ。
自分で変われるお兄ちゃんとは違って、まだ自分でコントロールできないあたしはしょんぼりしてすぐ黒パンダになっちゃう。
それでもみんなにいっぱい助けてもらって、少しは変われたよね。
あたしががんばれたのはみんなのおかげだから。
あたしが作ったチョコが少しでもお礼になればいいな。
ボウルの中に板チョコをぱきっと折って入れていく。
今日は溶かしちゃうんだけど、きれいに割れなくてななめになっちゃうと、なんだか悲しいよね。
元から半分とかななめとかなら悲しくないのかな?
銀色の包み紙、半分残ってた分を包み直してからまた開けてみたけど。よくわかんないや。
そういえばこの溝は割るためじゃなくて早く固まるようにだってどっかで聞いたんだけど、だからまっすぐ割れないのかな? どうせだったらまっすぐ割れてくれたら気持ちいいのに。
チョコは直接火にかけちゃダメだって教えてもらったからね。グラグラお鍋にお湯を沸かして、ボウルをちゃぽんとつけて。端からちょっとずつ溶けてくるチョコ、見てるとなんだか楽しいや。
時々売ってるお菓子のお家を作るセット。板チョコのポコポコした模様が壁だったり屋根だったりにぴったりなのはわかるけど。ホントに屋根がチョコだったら、夏とか溶けてきそうで大変だよね。
そんなことを考えてるうちにボウルの中のチョコもだいぶ溶けてきたから、ゴムベラで少し混ぜてみた。まだおっきな塊があるし、もっとあっためないとだね。
溶けたチョコはなんだかツヤツヤしてる。ゴムベラで混ぜるとまだかたまりがあったから、もうちょっと溶かさないとだよね。
ホントはあたしが作るより買った方が美味しいんだろうけど。せっかく教えてもらったし、あたしだってできるんだよってところを見てもらいたくて。
負けることは恥ずべきことじゃないって、どっかに書いてたし。挑戦しないと勝ちも負けもないもん。だからやってみるって大事だよね。
まぁこれは勝ち負けでもないんだけど。せめておいしそうにできたらいいなぁ。
材料を買いに行った時、たくさん並んでたチョコを思い出す。
まんまるトリュフチョコは甘いのもちょっと苦いのもあって。中が柔らかいからつい齧っちゃうんだよね。
でも噛むとすぐなくなっちゃうから。口の中でコロコロして溶かしたほうがいいのかな。
美味しそうな甘い匂いを嗅ぎながらぐるぐるしてたけど、いつの間にかザラザラした感じのかたまりができてる。
これってどう見ても元からあったかたまりじゃない……よね?
混ぜても混ぜてもかたまりは溶けなくって。食べてみたらチョコの味だけどボソボソしてる。
どうしよう。
お料理の味が薄いとかなら万能調味料のマヨネーズでなんとかなるけど、チョコはそういうわけにもいかない。
作り直すにも材料ももうないし、買いにいくなら片付けないとママに叱られちゃう。
オロオロしてるうちに黒かった腕が白く変わっちゃってる。
とにかくコレをどこかに移して、お片付けしてからまたチョコを買いにいって、それからもう一回やってみるしかないけど。どこで間違っちゃったのかわかんないよ。
まずはコレを……って思ったその時、お兄ちゃんが帰ってきた。
「……どうしたんだよ?」
お兄ちゃん、チョコの匂いにキッチンまで来て。黒パンダのあたしにそう聞いた。
あたしの前にはザラザラボソボソの失敗チョコ。
なんでもないよって言いたかったけど、なんでもなくないってバレてるのもわかってたから。
「……チョコ、溶けなかったの」
しょんぼりしてそう言うと、お兄ちゃんはボウルの中のチョコを見てからちょっと待ってろって。
お兄ちゃん、どうするつもりなんだろ?
戻ってきたお兄ちゃんは牛乳とお菓子の袋を持ってた。
「調べたんだけど、なんか牛乳入れたらいいみたいだから。いけそうならこれにつければいいかなって」
お兄ちゃんが渡してくれたお菓子はクッキーかビスケットか、あたしにはどう違うのかわかんないけど。チョコがけクッキーもチョコがけビスケットも美味しいもんね。
「ありがとお兄ちゃん」
「いいって。ほら、手伝うから」
お兄ちゃんの分も作るからこっそりやるつもりだったけど。もうそんなこと言ってられなくなっちゃった。
お兄ちゃんに教わって、あっためながら少しずつ牛乳を入れてみる。
かたまりはなくなったけどやっぱりザラザラしてるかな。
「ビスケットと一緒ならそんなに気にならないとは思うけど……」
お兄ちゃん、ビスケットにチョコをつけて渡してくれた。ビスケットのサクサクと一緒だと、たしかにそんなに気にはならない。
でも、自分で食べるならこれでもいいけど、渡すにはちょっと……だよね。
返事できないままのあたし。
じっとあたしを見てたお兄ちゃんが、ポンと頭に手を置いた。
「それ作ったあとにチョコ買ってくるから」
「お兄ちゃん?」
「カイたちに渡すつもりなんだろ? 作りなおせばいいよ」
俺はそれもらうし、って笑うお兄ちゃん。
お兄ちゃんの分も作ってたの、やっぱりバレてたんだね。
失敗チョコをビスケットにたっぷりつけて。固めてる間にあたしは一度お片付けして、お兄ちゃんはチョコを買いにいってくれた。
戻ってきたお兄ちゃんが渡してくれたのは、ミルクチョコとホワイトチョコとブラックチョコ。
どれがいいのかわからなかったから、全部買ってきたんだって。
お兄ちゃんと一緒にどうやって溶かせばいいのかもおさらいした。グラグラの中につけたらダメだったんだって。
手伝おうかって言われたけど。あとはひとりでがんばるね。
あたしにはみっついっぺんにできないから、時間はかかるけどひとつずつ。
まずはいつものミルクチョコ。さっきよりも細かく割って、グラグラしてないお湯で溶かす。
量が少ないのもよかったのかな、今度は上手く溶けたみたい!
おっきなカップひとつと、残りは小さなカップに入れて、用意してたキラキラのつぶつぶを載っける。
冷蔵庫に入れて道具を全部洗ったら、今度はホワイトチョコで同じことをして。最後は砕いたココアのクッキー。
ブラックチョコは苦いから、普通のクッキーは上に載せずに混ぜてみた。
はみ出しかけたり、載っけたものが片寄ったりしてるけど。なんとかなったかな。
全部冷蔵庫に入れてから。お片付けして、固まるのを待つ。
かわいいセロハンの袋も買っておいたから。それに入れてみんなに渡そう。
お兄ちゃんはこれでいいからって言ったけど。もちろん失敗チョコがけビスケットをお代がわりにはしないよ。
お兄ちゃんには特別、おっきいの作ってあるんだからね。
道具を片付けるあたしの腕は白いまんま。
結局黒パンダになっちゃったし。お兄ちゃんに助けてもらったけど。
それでもあたしだって少しはがんばれたかな。
固まったチョコをかわいい袋に入れて、キラキラのハリガネで閉じて。
あたしの精一杯よりも、ちょっとはみ出てるけど。ありがとうの気持ちはいっぱいだから。
みんな、喜んでくれたらいいなぁ!
お読みいただきありがとうございます。
この作品は『双子の白熊猫のきもち』https://ncode.syosetu.com/n6239hx/の二次創作です。
下に元作品とシリーズへのリンクがありますので、遊びに行ってみてくださいね。
歌川 詩季様。
二次創作、ネタ使用の許可をいただきありがとうございます。
そしてかわいいイラストもありがとうございます!
イラスト内、妹パンダ以外のキャラクターは、歌川 詩季様の『タスマニア・サーガ』https://ncode.syosetu.com/s4113h/より。
黄色のうさぎさんはケーキ屋さんなのです。
バレンタインデー、ということで。
プロに教えてもらったはずなのに、残念な結果となった妹パンダ。
チョコレートの温度管理は大変なのですよ……。
双子のパンダ第七弾、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
ロゴ制作 歌川 詩季様