-97- 背広
出世すれば背広を着なければならないのか? と問えば、必ずしもそうではない。背広を着ていない人でも、出世されたかなりの資産家は大勢いらっしゃる訳です。^^
「君ね、今日はアレだから、そのつもりで…」
世間でも超有名な、高額資産家でもあるとある巨大ホールディングスの会長、丑手は、執事の赤脚に軽く告げた。
「アレでございますか。かしこまりました…」
アレとは丑手がお気に入りの背広ではない普段着である。どこから見ても丑手とは見えず、いわば丑手の変装服ともいえた。
一時間後、丑手は軽快な自転車で目的地へと向かった。観たかった歌舞伎をお忍びで観るためである。指定席券は目立つか、態々(わざわざ)、二階席券を赤脚に取らせたのである。丑手の楽しみは歌舞伎の鑑賞だけではなかった。実はその帰りに気に入った店で美味な懐石料理を堪能し、美酒に酔いしれることだった。酔えば、自転車は法律に触れるから、赤脚配下のお抱え運転手にワゴン車で迎えに来させ、自転車はワゴンの後部荷台に乗せて邸宅へ帰る・・という運びとなっていた。これが出世を果たした丑手のアレである。では、ナニは? といえば、ナニはナニだった。えっ!? ナニはナニではよく分からん? でしょうか? ではナニの衣装をお答えしましょう。^^ ナニは定番の温泉旅用の背広ではない衣装である。外見は別人のように見える変装服で、どこから見ても老人とは見えず、丑手とは分からなかったのである。乗車券の手配や宿泊チケットは、赤脚によってすでに済まされており、いつでも出かけられる準備が調えられていた。予約は一年通して豪華客室での予約である。言わば、超高級温泉宿のいつでも旅が出来る貸し切り予約である。
このように、出世した人物だからといって、必ずしも背広を着用しておられない・・というお話でした。チャン、チャン!^^
完




