-93- 意識
出世を意識して働くか、意識しないで働くかによって、その後の人生は大きく変化する。個人によって、その気持は違いますから、一概には言えませんが、昨今、流行りのAI[人工知能]なら、そうですね・・などと解答すると思われます。^^
本倉は出世を目指し、意識して働いていた。一方、同期入社の麦川はその逆で、出世など眼中にはなかった。
二人が入社して三年が経過した頃、その差が歴然と出始めた。本倉の営業成績は他の課員を抜いてダントツ[断然トップ]となったのである。麦川は? といえば、他の課員よりは少し上程度で、コレといって目立った存在ではなかった。
「ははは…本倉君、この調子だと課長補佐だな。期待してるから、この調子で頼むよっ!」
課長の氷川はニコリと笑うと、係長の本倉の肩を軽くポンっ! と叩き、激励した。麦川はその光景を目にしても、取り分けて意識しなかった。
その後も二人の間には出世に対する意識は変わらず、本倉はさらに営業成績を上げ、麦川はほんの少し以前よりは成績を上げた程度だった。ところが、である。本倉は出世を意識する余り、契約の勇み足をやらかしてしたのである。傾きかけた企業の実情を十分に調べることなく大型の契約をしてしまったのだ。その企業が不渡りを出し、倒産するに及び、今までの営業成績を反故にする以上の負債が本倉に回ったのである。会社は連鎖倒産は免れたものの、大損害による経営立て直しを迫られる破目となった。その結果、本倉の出世は白紙となって平社員に降格され、麦川が変わって係長に昇進したのである。
出世は意識しない方がいいようですね。^^
完




