-92- 祈祷(きとう)
合格祈願の祈祷があるように、世知辛い昨今では出世したいばかりに出世祈願で祈祷する人が絶えない。その気持は分からないでもないが、神様や仏様とて、『はいはい、分かりました。では、そのように…』と外面でお受けなされても、内心では『¥5ではなぁ…』とお思いになられるかどうかは別として、そう容易く願いのお叶えになるとは思われません。^^
大企業に勤めるサラリーマンの豚尾は、今度こそ係長補佐になるんだっ! と意気込んでいた。豚尾がいくら意気込んでも、出世だけは本人の気持で成るものではない。^^ そこで豚尾は、神社仏閣にお参りして、出世祈願の祈祷をしてもらうことにした。出世のため、それなりに出資するのは仕方がない…と、豚尾は祈祷料を弾んだ。神様や仏様[神社仏閣の関係者を含む]にとってはホクホクするようないい御祈祷である。^^
「豚尾君、ちょっと…」
課長の牛皮が豚尾を課長席から手招きで呼んだ。
「はい…」
豚尾は祈祷ご利益が…と、瞬間、思った。
「君、四月から係長だ。頼みますよ…」
「ええ~~っ!!」
豚尾は係長補佐かと思っていたから、もう一階級上の係長と言われ、驚いた。
「どうしたんだね? そんなに驚いて…」
牛皮が笑顔で豚尾の顔を窺った。
「いえ、別に…」
二階級上ですよっ! と言おうとしたが、そうとも言えず、豚尾は心に留めた。
「まあ、そういうことだから…。以上です」
「はあ、どうも…」
豚尾はデスクに戻りながら、夢ではないだろうな…と現実を疑った。この大企業では細かな職階制が敷かれていて、平社員→係長補佐→係長→副課長補佐→副課長→課長補佐→課長→副部長補佐→副部長→次長補佐→次長→部長補佐→部長と昇進する職階になっていた。^^
まあ、とにかく出世できてよかったですね、豚尾さん。祈祷の甲斐がありました。^^
完




