-84- 明日(あした)は明日の風が吹く…
社会では出世など考えず、明日は明日の風が吹く…という気分で軽く生きた方が気楽になる。かつて有名コメディアンの方が歌われていたように、出世など考えず♪ドント節♪生きる方が気が楽ということです。^^
いっこう昇進の話もないまま定年近くになった馬毛は、今日も勤めを終え、行き馴れた場末の屋台でおでんを摘まみながら燗酒のコップで一杯やっていた。吹き始めた木枯らしに身を縮めながら、古びたラジカセから流れる演歌を聴きながらである。
「…親父さん、このラジカセはいつ頃の?」
「何年前ですかねぇ~。よくは覚えちゃいませんが、あっしの若い頃、買ったポンコツでさぁ~」
「そうなんだ…。CDが出る前の昔はカセットの時代だったからなぁ~」
「そうなんですよ。その頃、録音しといた曲ばかりなんですがね。耳障りならやめやしょうか?」
「いや、いいんですよ。いつも聴くの楽しみに飲んでるんですから…」
「さいでしたか? そりゃ、よかった…」
「ずいぶん、冷えてきたねぇ~」
「こんなことをお訊きしちゃなんなんですが、馬毛さんは出世の方は?」
「ははは…もう定年前ですよ。取り分けて出世したいなんて思いませんよ」
馬毛は本音を吐いた。
「さよですか…」
「明日は明日の風が吹くで生きてきた口ですから…」
「ははは…それが、ようございますよね、気楽で…」
「ははは…今日のような冷えた風は困りますがね。親父さんも一杯、どうです?」
「へえ、有難うごぜぇます~。それじゃ、一杯だけ…」
屋台の親父と馬毛は飲みつつ語り、夜は更けていった。
明日は明日の風が吹く…と、出世を考えない人生も乙なものかも知れませんね。^^
完




