-76- 竹の子の皮
出世は竹の子の皮に似ている。剥いても剥いても、同じ繰り返しで、そのうち小さくなり、ようやく食べられる部分が残る・・という結果となる。出世のために費やした労苦に比べ、ほんの小さな成果しか得られないということで、苦労の割りには出世できる可能性が小さいということでしょうか。まあ、小さくても出世できれば有難いですけどね。^^
春まだ浅い、とある町役場である。異動の内示を得た雲岡は、ようやく出世しようとしていた。
「係長、どうかしたんですか?」
昇進というついに掴んだ大きな獲物を得て、ニンマリとデスクに座る雲岡に、隣の席の小蛾が訝しげに訊ねた。
「んっ!? いやなに…」
「言って下さいよっ! 気になるじゃないですか」
相変わらずニヤける雲岡に、小蛾は訊き出そうと迫った。
「ははは…いや、まあ。そんな大したことじゃないんだ」
雲岡はいっそうニヤけて暈した。
「ねえ、お願いしますよ、係長っ!」
小蛾は執拗に食い下がった。
「いや、いやいやいや、まあ、いいじやないかっ! ははは…」
雲岡とすれば、自慢するのも小恥ずかしい…くらいの気分である。
「ねえ~~係長、お願いしますよっ!」
「そうかい。それじゃ言おうかな…」
「はいっ!」
小蛾が迫った。
「実は今日、管財課の課長補佐の内示が出てね…」
「なんだ、そうでしたか。実は僕も財務課の課長補佐の内示が出たんです」
「ええ~~っ! 君がっ!!」
ヒラ職員が二階級昇格する事例は、この町役場では実に珍しかったのである。その事実を聞いた途端、雲岡は竹の子の皮を剥くようにして得た管理職を、若いヒラ職員が、いとも簡単にモノにしたことに少し腹が立った。雲岡は小蛾を獲物にして食べてしまいたい気持に駆られた。
雲岡さんの気持は分かりますが、出世は個人の能力差です。食べたい…と思ってはいけません。^^
完




