-70- 折れるか折れないか
出世は折れるか折れないかで決まる。自分の気持ちを折れない人は大衆社会での出世は難しく、どちらかといえば芸能の世界や職人向きと考えられます。逆に、ジィ~っと我慢して、自分を折れる人は出世しやすいタイプでしょう。^^
中堅企業に勤める平社員の倉岡は自己主張の激しい男で、何度もあった出世のチャンスを逃してきた男だった。数年後には定年を迎える年となり、倉岡は初めて、一度、折れてみるか…と思うようになっていた。そんなとき、それを試す新たなプロジェクトの依頼が他社から舞い込んだ。課内では、一つのプロジェクトが計画されたが、どうせまた倉岡さんが反対するんだろう…という雲行きが広がろうとしていた。
「やはり、ダメなんでしょうね、倉岡さん?」
中堅社員の猪口が課内を代表して恐る恐る倉岡に訊ねた。
「んっ? いや、今回のプロジェクトは、いいんじゃないか…」
課内一同の顔が一瞬、倉岡に集中した。誰もが倉岡が折れるとは思っていなかったからである。今まで散々、自己主張を繰り返し、多数意見に反論して折れなかった倉岡が初めて自己主張をせず、折れたのである。倉岡が折れて、プロジェクトは順調に進み始めた。
数か月後、他社から依頼されたプロジェクトは完成し、シミュレーションを経た後、他社へ送られた。それが影響したのかは定かでないが、翌年の春、倉岡は係長へと昇進したのである。倉岡にとっては生まれて初めての長がつく出世だった。他人には見せない喜びが、自身の心に仄かに灯ったのである。倉岡は折れるのも満更じゃないな…と
風呂上がりの酒を味わいながらしみじみと思った。
倉岡さんのように、折れることで出世が夢でなくなるという一例です。まあ、折れないで自分を通したい人は出世を諦めるしかないというのが世間の相場になっているようです。^^
完




