-67- 幸福
出世すれば幸福になれるだろうか? と考えれば、必ずしもそうではないことが分かってくる。逆に、出世したばかりに不幸になった・・などという話も結構、多いのです。^^
尾上は入社以来、働きに働いて会社の発展に貢献し、ついに次長代理にまで昇格を果たした努力家だった。この次長に至るまで、係長補佐→係長→課長補佐心得→課長補佐→課長代理→課長→次長補佐心得→次長補佐、そしてついに次長代理へと多くの職階を経てきたのだが、昇格しても幸福感は一度も湧かなかった。さて、次は…と、心の中に次の地位への出世を…といった夢見る思考が働いたためである。
「まあ近々、次長には孰れなれるとは思うが、それなりの実績を上げれば、の話だがね…」
れば、か…と、尾上は部長、三輪の言葉を一歩、また一歩と山に登る心持ちで聞きながら仕事を終えた夜の酒場で酒を注いだ。ところが、次長への春の人事異動は見送られ、そのまま夏に向かっていった。会社の純利益が当初の予想より大幅にダウンしたためである。もちろん、尾上の所為ではなかったが、会社は恒例となっている春の人事異動を中止にしたからである。
『中止か…』
そう思った瞬間、尾上の心になんとも言えない幸福感がメラメラと燃え上がった。これで、ゆったり出来るぞ…と尾上には思えたからである。
出世すれば幸福か? と問えば、必ずしもそうではないようです。^^
完




