-63- 希望
出世への希望は誰しも捨て難いが、希望を抱くだけで終わる場合が残念ながら大半です。^^
とある大企業である。係長心得の竹尾は出世への希望を抱きながら勤めに励んでいた。それも、どうせ無理だろう…と分かっていたから微かな想いに終始したが、出来れば係長補佐になりたかったのである。
「竹尾君、ちょっと…」
係長補佐の上のポストである副係長の山松が突然、竹尾に声をかけた。
「はいっ!」
竹尾はビクッ! としたが、そろそろ人事異動の内示が出る季節だったから、もしやっ! と思え、元気な声を出して山松のデスクへ急いだ。
「実はアノ件なんですが…」
「はあ、アノ件ですか…」
アノ件って何だったんだろう…と竹尾はアノ件が浮かばず、思わず空返事をした。
「アノ件が片付くようなら君が課長補佐になれるかも知れんよ…」
「はあ、そうですか…」
「どうだ、片付きそうかい?」
「はあ、まあ…」
「はあ、まあ…か。異動の内示が近づいてるから、出来れば早い方がいいんですが…」
「はい、分かりました。急いで処理致します…」
「頼みましたよっ!」
軽く頭を下げて自分のデスクへ戻った竹尾だったが、アノ件って何だったんだろう…と考え倦ねた。だが、どうしても思い出せず、まあ、いいか…課長補佐昇進への希望は軽く考えることにした。
勤めが終わり、自宅に帰った竹尾は、浴槽に浸かりながら目を閉じた。すると妙なもので、副係長が言っていたアノ件を突然、思い出したのである。しかし竹尾は、まあ、いいか…と、今更慌てないことにした。係長心得から係長補佐への出世は余り出世するようには思えなくなったからである。
出世の希望は軽く思っている方が、気楽でいいようですね。^^
完




