-53- 大器晩成
出世にも大器晩成という晩稲がある。当然、その逆の早稲もある訳ですが…。^^
岩魚は出世しない男だった。すでに五十路に入ろうというのに、会社では万年平で、付いた綽名がマンネンイワナだった。
「まあ、釣られなくてよかったんじゃないか岩魚さん、ははは…」
「そうだよな、釣られりゃ、のんびり仕事が出来ないからな」
「ああ…」
釣られるとは管理職への出世を餌に厳しい仕事を強いられることを意味した。ところが、である。その岩魚が一年後、管理職を飛び越え、取締役部長になったのである。部長ならとにかく、社内取締役という役職付だった。これにはすべての社員が仰天した。なんといっても、万年ヒラ→取締役なんてことはぜんれいがなかったからだった。この会社に限らず、全ての企業でもそれはなかろう…と思われる人事だった。
「あの…私が取締役部長にならせて頂いた理由は何ですか?」
「そりゃ、あなたの何事にも動じない姿勢が認められたからじゃないですか。なにせ、昨今は激変する業界事情がありますから、不動の精神が肝心だということです…」
常務取締役の鱸がしみじみと言った。岩魚は、鱸さんは出世魚だから分かるが、私は…と疑問は晴れなかった。
このように大器晩成の出世は突然起こるのです。^^
完




