-42- 謙虚(けんきょ)
出世をしたとしても、その人が出世以降に取る態度によって事態は大きく変化する。「ははは…至らぬ身としては光栄の至りです。今後とも精進して参る所存でございます…」などと出世しても謙虚に語る人[内心を含む]は、さらに出世していくだろうし、表向きは謙虚に振舞っていても、『当然ですっ!』などと、さも当たり前のように嘯く人[内心を含む]は、誰かさんの歌詞ではないが、♪はい、それまでよぉ~~^^』ということになるみたいです。^^ 今のお若い世代の方には分からない古い曲なんですが…。^^
とある中堅企業の保修課に勤務する皺川は苦労人で、長年の現場から事務へと回された叩き上げである。初老に近づいた一年前、ようやく課長補佐代理心得に昇進した哀れな男だったが、この企業の職階制は細部に渡り、綿密に制度化されていた。
「皺川君、ちょっと!!」
「…はい、課長。何でしたでしょう?」
「おめでとう! 部長からの内示が出たから伝えておく。四月の新年度から課長補佐代理だっ!」
「ええっ!! 私が課長補佐代理ですかっ!!!?」
「ああ、営繕課のな…」
去年に続いての出世なのだが、皺川には今一、課長代理補佐心得と課長代理補佐の仕事の違いが分からなかった。ただ、昇格した…という謙虚な嬉しさだけで、思わず笑みが零れた。この謙虚な勤務姿勢が上層部に認められ、二年連続の出世となった訳である。
その夜、皺川は自宅でチビリチビリと熱燗を啜りながら、一人悦に入っていた。
『ようやく、課長代理補佐か…。んっ!? 課長代理補佐? …何をすりゃいいんだろう? ははは…まあいいさ、頑張るまでだ…』 謙虚な皺川の内心だった。
皺川さんは恐らく来年、課長代理に昇格を果たし、出世の道を邁進することでしょう。^^
完




