-40- 計算
黒花は計算し尽くして出世を目論んでいた。
とある高級料亭の和間である。暗い夜の帳の中、庭の照明灯がほんのりと灯り、吊るされた風鈴が夜風にチリリ~~ンと風情を醸し出す。
「大臣、その節はよしなに…」
ガラス銚子の冷酒を黒花のグラスに注ぎながら、大前ホールディングスの会長、大前英吾郎は頼み込んだ。
「んっ! ああ、まあ考えておきましょう…。それにしても抜け目がありませんなぁ~」
多額の政治献金を受けている手前、黒花はニンマリと哂いながら、大前に注がれたグラスをグビリ! とひと口飲んで、小皿の鱧の酢味噌和えをひと口、摘まんだ。大前は事前に黒花が大臣に就任することを見越し、計算づくで献金していたのである。時代劇なら、『フフフ…そちも、なかなか悪よのう』となるところが、現代ではこのような当たり障りのない会話になる訳だ。^^ 黒花は黒花で、大前から多額の献金がされるのを見越し、黒花は大臣ポストの根回しを事前に有力議員にすることに余念がなかった。献金する方もされる方も全て出世を見越して計算し尽くした行動だった。が、しかしである。計算し尽くせば、ひょんなことで狂いが生じるものである。
数か月後、一部の闇献金が発覚し、黒花と大前は検察当局の摘発を受け、奈落の底へと転落していったのである。
出世は計算し尽くして出来るものではないようです。^^
完




