-30- 世に出る
問答ではないが、世に出るから出世なのか…と紐解けば、それはそれで、なるほどっ! と合点もいくが、では、世に出なければ出世ではないのか? という疑問に突き当たる。私は、出世していないので、どちらでも構いませんが…。^^
政界の闇将軍と言われる数百坪にも及ぶ○○氏の豪壮な別邸の一室である。
「どうかね? その後の政局は? 私は一切、マスコミの関係を絶っているから最近の永田町界隈のことがよく、分からんのだよ、はっはっはっ!」
○○氏は豪快に呵い捨てた。
「先生にお話しするような出来事ではございませんが、I氏が総理に選出されました…」
「ほう! I君がついに世に出たか…。彼も冷や飯ばかり食べていたからねぇ~。美味い食事が出来るようになってなによりだよ」
「はあ、さようでございます…」
「五度目だからねぇ~、彼は辛抱強いよ」
「そのとおりでございます…」
「世に出るには方法があるんだよ、君、分かるか?」
「いえ、さっぱり…」
「そら、そうだろ。君の年で分かりゃ、苦労しないからね、はっはっはっ!」
○○氏は、ふたたび豪快に呵い捨てた。
「先生、その方法といいますのは?」
「私の秘書として長年、君は働いてくれたからね。ここだけの話だが、言っておこう」
「はあ、是非ともお聞きしとうございます…」
「それは、ホニャララが有るか無しか、ただそれだけのことだよ。分かったかね?」
「ホニャララでしたか…」
「そう、ホニャララが、その人物に有るか無しかだ。君にはあるようだが、どういう訳か世に出るチャンスが巡らんね」
「はあ、私は世に出たいとは思っていませんので…。先生のお世話をさせて頂ければ、それで十分でございます…」
「はっはっはっ! 欲のない男だ、君は…。そのうち世に出してあげよう」
「いえ、そんな、お、お気配りは…」
秘書はドギマギしながら言い損ねて言葉を噛んだ。
二十年後、この秘書は内閣総理大臣に国会で指名されるのである。
世に出るには、見えない強力なバックポーンが必要なんですね。^^
完




