-3- どうでもいい…
どうでもいい…と出世を考えなければ、出世の方からニンマリした顔で、そろそろどうですか? などと出世してもらおうと近づいてくるのは不思議なような気がします。
平凡思考の耳長はマイペースで生きる、定年間近い男だった。何事にも無頓着で、どうでもいい…と斜に構えて物事の推移を遠くから観望するのが日常になっていた。かといって、物事を回避していた訳ではない。
「耳長さん、忘年会なんですが…」
「ああ、そうだね…」
入社二年目の肩尾が、それとなく訊ねた。耳長は、もう今年も終わりか…と思いながら朴訥に返した。
「…どうされます?」
「ははは…どうもしないさ。去年も言ったろ。俺は忘年会も新年会も出ないことにしているんだ」
出世の道具にもなっていた飲み会は、耳長にとって、どうでもよかったのである。
「そうですか…。それじゃそう言っときます」
「今年の幹事は誰なんだい?」
「腕川さんですが…」
腕川は耳長より二十年ばかり若い中年社員だった。
「今年も腕川君か…」
腕川は毎年、幹事を務める世話好きな男だったが、どういう訳か出世には疎遠だった。飲み会のスタッフ専門といった色彩が強く、参加した社員達が出世していく中、彼だけは取り残されて平社員のままだったのである。耳長は、しみじみと思った。どうせ出世できないなら俺のようにどうでもいい…と生きた方が楽なんだが、と。
このように、出世はどうでもいい…と斜に構えて勤める方が気が楽で、案外と出世できるようです。^^
完