-21- 欲
人には多かれ少なかれ、誰にも欲がある。出世の場合は出世欲という醜い欲があり、能力があればそれはそれで意欲旺盛で結構な話だが、能力もないのに欲だけで出世したがる厄介な人々がいる訳だ。僭越ながら、自身に全うする能力があるのか? と、自問自答して戴きたいと存じます。能力もない人に出世されては、その配下の人々が迷惑して困るからです。^^
とある町役場に勤務する係長の乙山は、何が何でも出世したい…と思っていた。課長補佐を目指すこの段階では、本人自身にも単なる出世欲なのか? 意欲なのか? は、分からなかった。乙山には同期入庁の甲崎がいた。彼は同じ課の課長補佐として辣腕を振るっていた。甲崎には能力があったのである。同期だけに甲崎に指示されるのは乙山にとって面白くない。課長補佐は管理職であり、係長は平職員に毛が生えた程度で、大きな差があったのである。管理職に出世できるか出来ないかという係長⇔課長補佐に横たわる分水嶺は、まさに今、乙山に険しく迫っていたのである。
「乙山さん、課長がお呼びです…」
「はい…」
女性職員の百合川が乙山に告げた。乙山は課長席へ向かった。
「ああ、乙山君。君に内示が出た。おめでとう! 管財課の課長補佐だ」
「あ、有難うございますっ! ぅぅぅ…」
「泣くこたぁ~なかろう、ははは…」
乙山は平職員に毛が生えた地位から、晴れて管理職への分水嶺を超えたのだった。そのとき、乙山は欲ではなく、単に管理職になりたかった自分に気づいた。
欲、意欲まあ、孰れにせよ、お目出度とうございます、乙山さん!^^
完




